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大学野球

【全日本大学野球】12球団が熱視線を送るドラフト候補!西工大・隅田知一郎が残した特大のインパクト

上杉あずさ

2021.06.15

 リーグ戦では上での戦いを見据え、スライダーとスプリットを自ら封印して投げてきた。当然、苦しい場面もあったが、その甲斐あって全国の舞台では投球の幅が大いに広がった。最も自信があるというスライダーを隠してきたことで、神宮ではそれが大きな武器であることを改めて実感した。さらに、チェンジアップには相手打線もまったくタイミングを合わせられなかった。

「変化球は自信になったけど、真っすぐあっての変化球なので、秋に向けて真っすぐを磨いていきたいと思います」と次の戦いへ向けて前を向いた隅田。課題も見つかったが、大きな収穫も手にした一戦だった。

 ここに至るまで、決して楽な道のりではなかった。全国への切符を掛けた北部九州ブロック大会は大混戦だった。日本文理大、別府大、そして西工大の3チームが同率首位となり、優勝決定プレーオフ(巴戦)が行なわれた。そこでも1勝1敗で3チームが並び、再度行なわれた巴戦で別府大、同ブロック9連覇中だった日本文理大に連勝し、西工大が全国大会出場をつかみ取ったのだった。
 
 隅田は人目はばからず涙して喜びを噛み締めた。「自分がチームを勝たせたい」とエースの自覚を持って腕を振ってきたが、最後は「みんなに助けてもらって優勝できた」と仲間への感謝の思いが込み上げたのだという。その気持ちは神宮のマウンドでも変わらなかった。「自分は神宮に連れてきてもらった側なので」と仲間のために戦った。

 もう一人、勝利を届けたい恩人がいた。それは、今年1月に亡くなった野球部の寮長・岸上誠さん(享年77)だった。厳しさを持ち合わせながらも、常に選手たちの味方でいてくれる心強い存在だったという。「寮長を神宮に連れて行くんだ」とチーム一丸となってスタートした今季。見事、リーグ優勝を果たした際は、岸上さんの遺影も歓喜の輪に加わった。「寮長も神宮で勝つところを見たいと言ってくれていたので、寮長のために全国でも勝ちたかったんですが……また次頑張ります」と隅田。天国で見守ってくれた岸上さんにも、さらなる飛躍を誓った。

 西工大・武田監督は全国で1勝することの難しさを改めて痛感した。隅田をはじめ、2回戦で先発予定だったアンダースローの下山泰輝、主将の前田瑞己らに、入学当時から「お前らの代で全国優勝するぞ」と言い続けてきた武田監督。全国制覇の夢は叶えられなかったが、激戦を乗り越えて6年ぶりにたどり着いた神宮は、監督にとっても感慨深い舞台だった。

 隅田、下山以外の4年生はこの春をもって引退。11月に行なわれる明治神宮大会が、2人にとって西工大悲願の全国大会初勝利を叶えるラストチャンスとなる。秋こそ、歴史を塗り替える。

文●上杉あずさ

【著者プロフィール】
ワタナベエンターテインメント所属。RKBラジオ「ホークス&スポーツ」パーソナリティやJ:COM九州「ガンガンホークス CHECK!GO!」リポーターとしてホークスを1軍から3軍まで取材。趣味はアマチュア野球観戦。草野球チーム「福岡ハードバンクポークス」の選手兼任監督を務める。
 

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