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プロ野球

「こんな選手は初めてだった」近畿大・田中監督は“怪物”佐藤輝明をいかに育て上げたのか<SLUGGER>

氏原英明

2021.08.13

 佐藤はもともと、黙々と練習をする選手だったと田中監督は言う。ウェイト・トレーニングはもとより、室内練習場に一人でこもって、置きティーなどで自分のスウィングと向き合う。それこそ、「他人は関係ない」と言うくらいストイックだったと田中監督は語る。「いろんな意味でマイペース」なところに、佐藤の良さがあるという。

「正直に言いまして、こんなタイプは初めてです。元木や石川とか、プロに行きたい選手っていうのはギラギラ、ガツガツしとるんです。プロのスカウトが見に来ている時には、やる気を出したり、結果を出そうと必死になる。

 しかし、佐藤はそういうのがまったくないんですよ。誰が来てても、いつも通り、関係ないって感じでした。今も、バッターボックスでの振る舞いを見ても、10年くらいプロで飯食ってんちゃうかっていうようなスタンスじゃないですか。いい意味でのマイペースというか、人は人、自分は自分と臆することなくできるところは持ち味ですね」

 もちろん、そこに物足りなさを感じないわけでもないが、だからこそいろいろな意味で重圧のある阪神というチームでも、一年目から苦もなくやれているのだろう。良く言えば堂々としていて、悪く言えばふてぶてしい。そんなマイペースさが、佐藤の何よりの売りなのかもしれない。

 7月4日の広島戦では史上最多タイの1試合5三振を喫するなど、三振数ではリーグトップを独走しているが、そこに物怖じしている様子は見受けられない。三振をしてもフルスウィングは変わらず、マイペースに相手投手と対峙し、あくまでホームランを狙う。そのアプローチはどちらかと言えば、“フライボール革命”が流行しているメジャーの打者に近い。
 
 プロ1年目にしてこれだけ結果を残していることもあり、いつかメジャーの大舞台で……という夢も、思わず抱いてしまう。とはいえ、教え子に元メジャーリーガーの黒田がいて、アメリカの厳しさを知っている田中監督は、このように言う。

「まずはフルシーズン、怪我なくやってもらいたいですね。そして、皆さんが期待している、ここ一番でのホームラン、打点というのを結果として残す。子供たちに夢や感動を与える選手になってほしいですね」

 ひとまず今季の佐藤が目指すのは、86年の清原和博(当時西武)が持つ31本の新人本塁打記録になるだろう。その上で、今後も先人が残したさまざまな本塁打記録を目標とする野球人生になれば、おのずとさらなる段階へとスケールアップしていくに違いない。

 最終的には王貞治の通算868本塁打の更新を目指すのか。それとも、大谷翔平(エンジェルス)のように、メジャーでも本塁打を量産する打者を目指すのか。佐藤がどのような道を選ぶにせよ、今から夢は尽きない。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
 

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