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MLB

『フィールド・オブ・ドリームス』は大盛況も「ウラ事情は放置」のMLBへの違和感【豊浦彰太郎のベースボール一刀両断!】<SLUGGER>

豊浦彰太郞

2021.08.27

ブラックソックス事件で永久追放されたジャクソン。映画の重要な登場人物の一人だが、イベントにおいてこの事件はほとんど触れられることがなかった。(C)Getty Images

ブラックソックス事件で永久追放されたジャクソン。映画の重要な登場人物の一人だが、イベントにおいてこの事件はほとんど触れられることがなかった。(C)Getty Images

 キンセラの心情は、一般的なアメリカのファンの認識にも近い。吝嗇な球団オーナーのチャールズ・コミスキーにより、ホワイトソックスの選手たちは不当な待遇を強いられていた。

 ジャクソンを含む7人の選手たちがギャングからカネを受け取ったのは事実だが、裁判では無罪判決を勝ち取った。しかし、球界浄化を掲げる連邦判事で初代コミッショナーのケネソー・マウンテン・ランディスは、カネの受け取りは拒否した1人も含めた8人を、見せしめの意味も込めて永久追放処分とした。そのため、処分を受けた選手たちは“アンラッキー・エイト”と呼ばれるなど、どちらかと言えば同情を集める存在として語られてきた。

 事件からすでに100年以上が経過している。「もう許してやれよ」という意見がある一方で、その後、新たな事実は明らかになっていない。シューレス・ジョーらの名誉回復を行なうべきかは意見の分かれるところだが、それをするわけでもなく、かといってその意向がないことを改めて明らかにもするわけでもなく(ロブ・マンフレッド・コミッショナーは15年に彼らを復権させるつもりはないと語っている)、『フィールド・オブ・ドリームス』の情緒的な部分だけをビジネスに利用するのはあざといと言えなくもない。

 しかし、この問題を考察する上で押さえておかねばならない事実もある。シューレス・ジョーらには無罪判決が下されたと言っても、それは彼らの無実が証明されたというわけではない。敗退行為を行おうとする「意思」を物的証拠で明らかにできなかったため、推定無罪の原則が適用されたに過ぎないのだ。
 
 また、ワールドシリーズでの八百長も、選手の方からギャングに持ちかけた企画であり、決して逆ではない。これは選手たちが八百長を提案するような土壌が球界に存在した事実を示すもので、当時は本件以外にも敗退行為がある程度、常態化していたのは間違いない(実際、野球史家の多くはそう指摘している)。

 にもかかわらず、MLB機構や野球殿堂がこの事件を語る際には、あたかも突発的に発生した不祥事だと言わんばかりだ。そして、関与した者を追放し、球界の清廉性が保たれたかのように扱っている。このことにぼくは強い違和感を感じるのである。

 来年のイベントでも、おそらくMLB機構は映画の裏側にある事情には、ほとんど触れようとしないだろう。ブラックソックス事件や永久追放された8人と、真の意味で正面から向き合うことなく、あくまで郷愁的マーケティング企画として開催されるのだろう。果たしてその姿勢が本当に正しいと言えるのだろうか。

文●豊浦彰太郎

【著者プロフィール】
北米61球場を訪れ、北京、台湾、シドニー、メキシコ、ロンドンでもメジャーを観戦。ただし、会社勤めの悲しさで球宴とポストシーズンは未経験。好きな街はデトロイト、球場はドジャー・スタジアム、選手はレジー・ジャクソン。
 
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