専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
プロ野球

プロ野球“ファーム沼”の住民たち/後編ーー“推し”を見守る姿は母親そのもの。愛にあふれた二軍の世界

村岡範子

2021.09.12

 中学生の子供を持つ主婦のAさんは、「平日は子供より先に家を出ることはできないけど、早起きして子供が起きるまでに身支度を済ませたり」と工夫をして時間を作り、球場へ足を運んでいる。自宅から鎌スタまではドアtoドアで2時間超かかることもあり、子供の帰宅に間に合うようにと試合途中で球場を後にする日もあった。

 遠方から通う人がいる一方で、思い切って「鎌ヶ谷へ移住しました」のがYさん。移住前は実家の茨城県牛久市から都内へ通勤していたが、ファームにハマってから「鎌ヶ谷に住もう」と決意。丸2年、「球場まで自転車で5分」という好条件で観戦にのめりこんだ。事情があり、現在はまた別の場所へ引っ越したが、それでも「月3回ぐらい」は足を運んでいるという。

 Sさんのファーム愛も独特だ。「道具車やスタッフも大好きだから、道具車が来る前に球場入りして、手を振ってお迎えして、そのあと推しのお迎え。道具者は試合開始5時間前くらいに来るので、それに合わせて行く」という。「私にとっては道具車のお迎え、推しのお迎え、バスのお迎え、試合、それぞれのお見送り、最後に道具車のお見送り、これ全部がファーム観戦」と、まさに究極のファーム愛だ。
 
 現在はコロナ禍のためロッテ浦和球場が入場禁止となってしまったが、「コロナでビジターしか行けなくなってから、さらに必死になった。少しでも長い時間選手を見たいし、会いたいから、せめて車にも手を振りたい、みたいな」と熱が冷める様子はまったくない。

 Sさんはこうも言う。「最初は私も推しが一軍に上がればファームは用がないなって思ってたけど、球場に通ううちにスタッフとかコーチも覚えていって。距離が近いからコーチとか選手の声もよく聞こえるし、選手の表情とかもよくわかる。全体を見てると、当たり前なんだけどものすごく『チーム』って感じで、自分はそのチームを応援してる! って実感が湧く」

 注目される機会も決して多いとは言えない「ファーム」という世界。だが、一歩足を踏み入れると、そこには一軍を目指すためにひたすら汗を流し、土にまみれ、真っ黒に日焼けした姿で努力をする選手と、彼らが一軍で輝く日を見ることを楽しみに応援するファンがいる。ある意味では、一軍以上に愛にあふれた世界。そこがファームという"沼"の最大の魅力かもしれない。

取材・文●村岡範子

【著者プロフィール】
むらおかのりこ。1983年生まれ。軟式野球チームの監督だった父の影響で小学2年からプロ野球ファンになる。大学上京後、チアリーダーとなり、Jリーグクラブの公式チアリーディングチームのメンバーを務める。2018年から二軍観戦にハマり、可能な限り球場へ足を運ぶ。19年にスポーツサイトでNPB担当ライターを経験し、現在はフリーで活動中。

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号