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MLB

MLBのポストシーズンから姿を消した“偉大なエース”たち。フロントではなく選手が再び主役になる日は来るのか<SLUGGER>

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2021.11.05

レッドソックス、カブスを世界一に導いたエプスティーンだが、データ偏重の傾向を生み出したのは自分と後悔の念を見せている。(C)Getty Images

レッドソックス、カブスを世界一に導いたエプスティーンだが、データ偏重の傾向を生み出したのは自分と後悔の念を見せている。(C)Getty Images

 だが、あらゆる局面で「確率」を優先することで、個々の選手が輝きを放つ場面が減ってしまった点は否めない。先発投手は早々に降板し、あとを受けて名前を覚えるのも苦労するほど多くのリリーフ投手が入れ代わり立ち代わりマウンドに上がる。盗塁も、「失敗した時のリスクが高い」という理由で敬遠されるようになって久しい。

 一方で、最近は捕手だけでなく外野手までもが相手チームのスカウティング・カードをポケットに忍ばせるようになった。極端な言い方をすれば、勝利をつかむための戦略面を考えるのはもっぱらフロントで、選手はその戦略を忠実に遂行する駒になりつつある。これは、イチローが引退会見で語っていた「(野球は)頭を使わなきゃできない競技なんですよ、本来は。でもそうじゃなくなってきているのがどうも気持ち悪くて」というコメントとも符合する。

 ポストシーズン中、マックス・シャーザー(ドジャース)はこう言っていた。「ファンは先発投手が長く投げるのを見たいはずだ。それがファンにとっても、選手にとってもベストだと思う」。
 
 皮肉なことに、シャーザーが所属するドジャースはMLBで最もフロントの存在感が強いチームの一つだ。このポストシーズンでも、今季20勝を挙げたフリオ・ウリアスが2度にわたってリリーフで起用され、先発としては本来の投球ができなかったことが論議を呼んだ。シャーザー自身、ポストシーズンは決して本調子ではなく、チームはリーグ優勝決定シリーズで敗退した。

 興味深いのは、この潮流を生み出した張本人と言ってもいい人物が今、「フロント主導の野球」を是正し、「ゲームを選手たちの手に取り戻す」方法を模索していることだ。その人物とは、04年にレッドソックスで“バンビーノの呪い”を解いて86年ぶりの世界一を勝ち取り、16年に今度はカブスを108年ぶりの頂点に導いたセオ・エプスティーンである。

 28歳の若さでGMとなり、マネーボールに代表されるセイバーメトリクス重視のチーム作りで大成功を収めたエプスティーンは数多くのフォロワーを生み出した。今では、選手経験はないが一流大学で経済学などを修めたインテリGMが大多数を占めるが、そのプロトタイプとなったのもエプスティーンだ。
 
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