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MLB

「最も価値がある」とは何か。大谷翔平のMVPノミネートから見る日米の“価値観”の相違

新井裕貴(SLUGGER編集部)

2021.11.09

捕手新の48本塁打に加えて打点王を獲得したペレス。しかし、まさかのMVP投票は上位3人に入らず。これも日米の違いを感じる基準だろう。(C)Getty Images

捕手新の48本塁打に加えて打点王を獲得したペレス。しかし、まさかのMVP投票は上位3人に入らず。これも日米の違いを感じる基準だろう。(C)Getty Images

 WARとは、打撃・走塁・守備・投球を得点価値というスケールに落とし込み、すべての選手を一つの指標で比較していくもの。Wins Above Replacementの頭文字を取っていて、「勝利」にどれだけ貢献できたのかを示している。

 メジャーでは大手2大データサイト『Baseball-Reference(BR)』と『FanGraphs』が算出しているものが有名で、今回の投票上位を『BR』版で見ていくと、ア・リーグでは大谷が1位(9.0)、セミエンが3位(7.2)、ゲレーロJr.が4位(6.8)、ナ・リーグはソトが2位(7.0)、タティースJr.が4位(6.5)、ハーパーは11位(5.9)だった。 

 WAR上位3人がそのまま選ばれているわけではないものの、例えばア・リーグ二冠王、しかも捕手歴代最多本塁打数を記録したサルバドール・ペレス(カンザスシティ・ロイヤルズ)が“圏外”というのは、所属チームが下位だとしても、日本的に言えば「あり得ない」だろう。しかし、ペレスは 『BR』メジャー29位(5.3)、『FG』では92位(3.4)と意外なほど低評価だった。 

 タイトルホルダーは今でも称賛される。しかし、真の意味で優れた選手かどうかとなると話は別、というのが今のメジャーの考え方だ。記者はもちろん、ファンもさまざまな考察記事やデータに触れる環境が整い、野球観を磨き続けている。
 
 先のペレスで言えば、出塁率が低いことによる打力の貢献がさほど高くないこと、守備でもフレーミングなどに課題を抱えていることがWARの伸び悩みにつながった。「タイトルすごい! よしMVP!」のような安直な発想だった時代は、もう終わりを告げたと言っていい。 

 なぜなら、“愚か”な選択をした記者は相当にバッシングされるからだ。メジャーのアウォード投票は、どの記者が、誰を、どの順位で投票した/しないが一目で分かる。それだけに、投票者には説明責任が求められ、その義務を果たしてはじめて“本物”なのである。 

 今年のMVP投票では、史上初めて両リーグともポストシーズン出場を逃した選手がトップ3に入った。その中では少なくない部分でWARに基づいて投票した記者もいただろう。ハーパーはリーグ11位にとどまったけれども、OPS(出塁率+長打率)は両リーグ1位という攻撃力を高く評価した者もいたに違いない。「優勝チームじゃないとダメ」「タイトルホルダーじゃないとダメ」とフィルターをかけていくと、“Valuable”な選手を考えるにあたり、狭い範囲から選ばないといけなくなる。 

「価値のある選手とは何か」。これを突き詰めた先がMVP投票の本来の姿だ。大谷は優勝チームでもタイトルホルダーでもないけれど、誰が見ても「価値ある選手」だったはず。日本でもMVP投票が大いに注目された今だからこそ、改めて「Most Valuable」とは何なのかを考えるいい機会になったように思う。 

構成●新井裕貴(THE DIGEST編集部)

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