ただそうは言っても、長いイニングを投げる投手に大きな価値がある点に変わりはない。それならば「先発で7イニング以上」投げた試合数をカウントすればいいのではないか。これなら8回はセットアップ、9回はクローザーに任せるのが主流である現代野球の感覚にも合っている。
実は、現在も前記の7項目の基準以外に「7回以上3失点以下」の「沢村賞QS(クオリティ・スタート)達成率」という補足項目も設けられているので、選考委員にとっても比較的抵抗感なく受け入れられるのではないか。7イニング以上の登板は山本が20回、セ・リーグだと柳裕也(中日)と森下暢仁(広島)が14回、大野雄大(中日)と大瀬良大地(広島)も13回記録している。基準を緩く設定するなら「先発登板数の半数以上」、厳しめなら「15試合以上」としてもいい。
投球回数も、200回以上は16年以降パ・リーグでは皆無、セ・リーグでも前述の菅野1人だけという現実に鑑み、175~180イニング程度まで下げるべきだろう。6人ローテーションだと年間の先発数は24試合で、これに前述の7イニングをかけると168回だから、それよりも少しだけ多い勘定になる。この数字でもなお、今季クリアしたのは山本だけ。沢村賞の権威を損わない程度に、しかも達成可能な基準にするなら175イニングが適切ではないか。
また、勝利数と勝率に関しても再考の余地がある。現代における勝利数は打線の援護やリリーフ投手の投球内容にも左右されやすく、先発投手の実力を表す指標ではなくなっているからだ。MLBのサイ・ヤング賞が、18年に10勝9敗ながら防御率1.70(両リーグ1位)だったジェイコブ・デグロム(メッツ)に与えられたように、沢村賞も純粋な投球内容を評価した方が良いだろう。
そういう意味で、投球の質を評価する項目として、K/BB(奪三振÷与四球)の導入を提案したい。奪三振数は現在も評価項目に入っているが、本来はコントロールの良さも好投手の条件のはず。与四球と奪三振をセットにすることで、「投球の完成度」も評価できる。一般的には3.50以上が優秀とされるが、もう一段階上げて「4.00」とするのはどうか。これを基準に設定すると、今季はセ・リーグ2人、パ・リーグでは4人が該当。山本はここでも5.15で両リーグトップだった。
最後に、この記事で提案する「現代に合った沢村賞基準」をまとめると、以下のようになる。
①150奪三振
②防御率2.50
③175イニング以上
④25登板
⑤7イニング以上の登板が15試合以上
⑥K/BB4.00以上
その年の最高の投手を表彰するという意味で、確かに沢村賞の価値は少なくない。だが、40年前の価値基準に固執する意味がどれだけあるのだろうか。あまりに時代の変化からかけ離れてしまうと、賞そのものの存在意義がなくなりかねないだろう。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。
実は、現在も前記の7項目の基準以外に「7回以上3失点以下」の「沢村賞QS(クオリティ・スタート)達成率」という補足項目も設けられているので、選考委員にとっても比較的抵抗感なく受け入れられるのではないか。7イニング以上の登板は山本が20回、セ・リーグだと柳裕也(中日)と森下暢仁(広島)が14回、大野雄大(中日)と大瀬良大地(広島)も13回記録している。基準を緩く設定するなら「先発登板数の半数以上」、厳しめなら「15試合以上」としてもいい。
投球回数も、200回以上は16年以降パ・リーグでは皆無、セ・リーグでも前述の菅野1人だけという現実に鑑み、175~180イニング程度まで下げるべきだろう。6人ローテーションだと年間の先発数は24試合で、これに前述の7イニングをかけると168回だから、それよりも少しだけ多い勘定になる。この数字でもなお、今季クリアしたのは山本だけ。沢村賞の権威を損わない程度に、しかも達成可能な基準にするなら175イニングが適切ではないか。
また、勝利数と勝率に関しても再考の余地がある。現代における勝利数は打線の援護やリリーフ投手の投球内容にも左右されやすく、先発投手の実力を表す指標ではなくなっているからだ。MLBのサイ・ヤング賞が、18年に10勝9敗ながら防御率1.70(両リーグ1位)だったジェイコブ・デグロム(メッツ)に与えられたように、沢村賞も純粋な投球内容を評価した方が良いだろう。
そういう意味で、投球の質を評価する項目として、K/BB(奪三振÷与四球)の導入を提案したい。奪三振数は現在も評価項目に入っているが、本来はコントロールの良さも好投手の条件のはず。与四球と奪三振をセットにすることで、「投球の完成度」も評価できる。一般的には3.50以上が優秀とされるが、もう一段階上げて「4.00」とするのはどうか。これを基準に設定すると、今季はセ・リーグ2人、パ・リーグでは4人が該当。山本はここでも5.15で両リーグトップだった。
最後に、この記事で提案する「現代に合った沢村賞基準」をまとめると、以下のようになる。
①150奪三振
②防御率2.50
③175イニング以上
④25登板
⑤7イニング以上の登板が15試合以上
⑥K/BB4.00以上
その年の最高の投手を表彰するという意味で、確かに沢村賞の価値は少なくない。だが、40年前の価値基準に固執する意味がどれだけあるのだろうか。あまりに時代の変化からかけ離れてしまうと、賞そのものの存在意義がなくなりかねないだろう。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。