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【MLB不正投球問題の本質:前編】シーズン中の規制強化が巻き起こした波紋<SLUGGER>

SLUGGER編集部

2022.01.02

「選手たちがルールに従っているとファンを安心させたい」とマンフレッドは言った。「これはベースボールの威厳を考える上でも非常に重要なことだ。私は、(取り締まりを厳格化した直後の)初期のデータが示している通りになることを期待しているし、望んでいる。つまり、打率や出塁率、長打率が上がり、三振や四球、死球の割合が減るということだ」

 それにしても、何万人ものファンが見守る中、審判が全投手のキャップやグローブ、ベルトをイニング間に検査せざるを得なくなる事態に、どうして陥ってしまったたのだろうか?
 ある意味でこの問題は、100年以上にわたって投手たちが行ってきた儀式の延長線上にあるのだ。

 1920年にスピットボールが禁止されてからも、投手たちはボールの変化を増すため、縫い目にしっかり指をかける以上の行為を秘密裏に続けてきた。50~60年代にヤンキースのエースとして活躍し、殿堂入りも果たしている左腕のホワイティ・フォードは、特製の指輪をはめてマウンドに上がり、ボールに傷をつけていた。70年代に2度のサイ・ヤング賞を獲得したゲイロード・ペリーは、異物が塗られた首、髪の毛、キャップ、ユニフォームなどを次々にさわって打者を幻惑した。そして、『Me & The Spitter(私とスピッター)』という本まで書いた。

「一流のスピットボーラーは犯罪者とは見なされない」と、ペリーはその本に書いている。「アーティストだと思われるんだ」
 
 とはいえ、それはもう50年近く前の話だ。今の投手も、ワセリンを塗った程度のことでは非難されないだろう。少しでも相手より優位に立つためにあらゆる可能性を模索するのは、今も昔も変わらない選手の本能だ。しかも、おそらく捕まらないという状況であれば、なおさらだ。テクノロジーが進化するにつれ、不正技術も進化しているのである。

 回転数が高いボールはその分だけ高い軌道を長く保ち、打者にボールが浮き上がるような錯覚を与える。打者のマッスルメモリーには、ボールはホームプレートに近付くにつれて軌道が落ちていくと記憶されているからだ。当然、スピンレートが高いボールは打ちにくくなる。ハイスピードカメラのおかげで、すべての球の正確なスピンレートを計測できるようになり、投手たちはどんなボールが最も効果的か分かるようになった。加えて、握りを強化するためのさまざま物質を試すことで、スピンレートを向上させるために最も効果的な物質も簡単に見つかるようになった。
 

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