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高校野球

「京都国際さんの思いを背負って」——代替出場から“執念の勝利”を収めた近江。今大会のさらなる躍進を占うカギは?

氏原英明

2022.03.21

久々の登板で165球を投げ抜いた山田。打撃でも躍動し、ヒジの故障から完全復活を印象付けた。写真:滝川敏之

久々の登板で165球を投げ抜いた山田。打撃でも躍動し、ヒジの故障から完全復活を印象付けた。写真:滝川敏之

 延長13回のタイブレークは4番・山田からの好打順だった。無死、1、2塁から山田は初球を左翼前に運んで1点。さらに、その後も攻め込むと犠打エラーや暴投などを絡めて一気に4点を奪って、試合を制したのである。

 土壇場の粘りは先の言葉にある、京都国際への想いともらったチャンスをいかに自分たちのものにするのかの執念が繋がったに違いない。それは冒頭の指揮官の言葉にも表れていると言えるだろう。

 改めて今年の近江を語る上で切り離せないのが、エースで4番、主将も務める山田の存在だ。「感動発信をできる子。この子は甲子園に来ると何かをやってくれる」と近江・多賀監督も高く評価するほどだ。

 昨秋はこの山田がほぼいない状態で戦った。昨夏の甲子園で近江はベスト4に進出したが、その陰で、疲労の蓄積が山田を襲った。昨夏の甲子園は近年、類を見ないほど雨に祟られた大会で、近江は過密日程を強いられたからだ。

 2回戦の大阪桐蔭戦から準決勝までの6日間で4試合を消化。山田は全試合で先発登板を果たしていた。スプリットやスライダーを持ち味とする投手だけに、どれだけの疲労があったかは想像に難くない。

 新チーム結成以降は右肘の治療に専念。県大会では試合に出場することもなかった。多賀監督はそんな山田にエースナンバーを与えベンチに入れたものの、試合で起用したのは近畿大会で打席のみだった。

 その分、チームはセンバツ出場の当確圏内である近畿大会ベスト4進出を果たせなかった。好ゲームを展開するも、投手陣が崩れ、失点が多く目立ったのだった。1月28日の選考委員会では「投手力」を課題に挙げられ、補欠1位校に甘んじていた。

 昨秋、怪我を押して山田が強行出場を果たしていたら、もしかすると、近畿大会ベスト4進出を果たせていたかもしれない。それほどの大黒柱だからだ。一方、もし、強行させていたら、この日の山田の姿はなかっただろう。彼の身体は大きな重症を負っていた可能性は否定できない。

 昨秋は山田を温存して、結果は出なかった。

 しかし、運命のいたずらか、こうして、山田を中心にした近江がセンバツの舞台に立ち、勝利を挙げたのである。

 昨秋の選択と山田の存在が改めて近江にとって大きなものであるということがわかったに違いない。ただ、問題はこれからだ。

「昨年夏、甲子園のベスト4の中に僕も山田と一緒に出ていましたが、個人的には良い成績を残すことができませんでした。その悔しさはあるので、今大会は山田より目立ってやろうと思っています」

 3番打者としてこの日2安打の津田はそう語っている。

 代替出場の近江が好スタートを切った。ただ、これから先を占うのは山田なしで戦った昨秋からの成長力にほかならない。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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