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MLB

いずれは日本の高校生も対象に? MLBが構想する「インターナショナル・ドラフト」の“理想と現実”<SLUGGER>

中島大輔

2022.04.01

プエルトリコ初の全体1位指名となったコレア。アメリカのドラフト対象となって、同国の野球にも大きな変革が起きた。(C)Getty Images

プエルトリコ初の全体1位指名となったコレア。アメリカのドラフト対象となって、同国の野球にも大きな変革が起きた。(C)Getty Images

 16年3月に訪れたベネズエラのアカデミー「ロス・ピノス」には、当時13~17歳の20選手が在籍していた。3人のスカウトが全国から優秀な少年をスカウトし、5人のコーチが指導する。9選手が寮生活を送り、費用はすべて無料だ。

 その代わり、彼らがMLB球団と契約した際には契約金の30%がアカデミーに渡る。イメージとして、ロス・ピノスは日本の強豪高校野球部に近い。違いはお金のやり取りに関する部分だろう。

 当時取材したエドウィン・オチョアという内野手は、17歳の時に1万ドルの契約金でシンシナティ・レッズに入団した。その後の足跡を追うと、同年6月にドミニカのサマーリーグでプレーし始めたが、23試合で打率.189とアピールできず、8月末にリリースされている。これもラティーノの現実だ。タティースJr.のように82.5万ドルで契約してスーパースターになり上がる者もいれば、オチョアのように誰にも知られないまま数か月でクビになってしまう選手もいる。

 中南米には才能を持った少年が無数にいて、MLBにとって文字通り“宝の山”だ。対してラティーノからすれば、たとえマイナー契約でも家族の生活を一変させられるお金を得られる。とりわけドミニカは一攫千金を目指せるビジネスが限られ、野球は国を象徴する産業だ。

 多少問題はあっても、現行のシステムは選手、MLBの双方にとって「ウィン・ウィン」と言える仕組みとして存在している。タティースJr.はそんな現状を壊しかねないインターナショナル・ドラフトに反対の声を挙げたのだろう。
 
 一方、ルールの隙をつくような行為が横行していることも、公然の秘密として知られている。MLB球団のスカウトは10歳くらいから優秀な少年に唾をつけ、「16歳になったら契約しよう」と口約束を交わす。いざその時が来たら、契約金を下げようと交渉してくる球団もあるという。

 対してブスコンは、10代前半の選手に禁止薬物を使用させる場合もあるとも言われる。彼らは、お金を得るために手段は選ばない。倫理的に考えれば許されない行為だが、ドミニカの貧困層が置かれる環境は日本人が想像できないほど厳しく、野球くらいしかなり上がる手段がないのも事実だ。MLB球団と契約するには16、17歳と若いほど有利と考えられ、年齢詐称疑惑が尽きないのもそのためと考えられる。

 MLBはこうした行為を問題視し、インターナショナル・ドラフトを導入しようと考えている。20ラウンドの指名順位ごとに契約金が定められ、MLB公式サイトによれば全体1位の契約金は525万ドルだという。「上位選手は現状より多くの金額を手に入れられる」とMLBは主張するが、お金の流れをコントロールしたいとの思惑も見え隠れする。

 過去を振り返ると、かつての自由競争からMLBの新人ドラフトに組み込まれた地域もある。カリブ海にありながらアメリカの自治領という特殊な位置づけのプエルトリコは、1990年から新人ドラフトの対象となった。ロベルト・クレメンテが活躍した頃からカルロス・コレアがミネソタ・ツインズとで3年1億530万ドルで契約を結んだ現在まで、プエルトリコは数多くのスター選手を輩出してきた重要地域だ。
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