筆者は2019年に現地を訪れた際、アマチュア選手がドラフトの対象に組み込まれた影響を取材テーマのひとつに掲げた。「カルロス・ベルトラン・アカデミー」でディレクターを務めるエドウィン・マルドナード、「ネクスト・レベル・アメリカ・アカデミー」の創設者ペドロ・レオンともに「素晴らしい」という答えだった。ドラフトの対象になったことでMLBと契約する選手数は減った一方、「プエルトリコ人にとって選択肢が増えた」と両者は理由を挙げた。以下、レオンの弁だ。
「ドラフトの対象になる以前は、まだ準備のできていない選手がMLBと契約していた。本来は少年の頃から然るべき準備を行い、成熟した男になってからプロになるべきだ。1、2年でクビになるようでは意味がないだろ? しっかり英語の準備をしてアメリカのカレッジに行けば、ドラフトで指名されてより多くの契約金を手に入れることができる。それが、我々が持っているオプションだ。ドミニカ人は持っていない」
プエルトリコの対象は「ルール・フォー・ドラフト」であり、ドミニカやベネズエラとは置かれた状況が異なる。だが、インターナショナル・ドラフトの導入を考える際、レオンの指摘は参考になるだろう。 MLB公認代理人で、米国オクタゴン社の野球部門環太平洋部長・長谷川嘉宣はエージェントの立場からこう語る。
「アメリカの高校生がドラフトにかかる場合、『そういう契約金になるなら、僕は大学に行きます』という選択肢もある。いわば、交渉材料があるわけです。例えば現在の能力的には下位指名だとしても、その順位のスロットバリュー(順位ごとに設定された契約金)では獲得できないから、欲しい球団は上位指名にして高い契約金で獲る。そうした選択肢が選手側にもあるわけです。
でも、ドミニカやベネズエラの場合は違います。インターナショナル・ドラフトになると、ある意味で“絶対評価”になります。『この選手はこういう能力だから、この金額』となるけれども、実際問題として交渉の材料が一切なくなる。今は少なくとも、30チームと話をすることはできます。確かに金額の上限が決まっているとはいえ、球団ごとの環境も含めて選手に選択肢があります。それがドラフトになると、一気になくなる。そういう意味で反対意見もあるでしょう。いずれにせよ、我々が考えるより奥深い問題があると思います」
長谷川部長が言うように、確かに“部外者”が簡単に口を挟みにくい問題ではある。ドミニカにとって野球は主要産業であり、誇るべき文化で、貧困を脱出する手段だ。ベネズエラにとっても似たような意味合いがある。
ただし、インターナショナル・ドラフトは日本にとって無関係というわけではない。例えば大谷翔平クラスの選手が高校卒業後にメジャーを目指したいとなれば、その対象になることも考えられる。もちろん、大学や社会人のトップ選手にも関わる可能性がある。
「ドラフトをいつやるかによっても、影響は変わってくると考えられます」
長谷川部長がそう話すように、例えば日本のドラフトが行われる10月より前にインターナショナル・ドラフトが開催される場合、日本の学生で対象となる選手はいつまでに退部届を提出すればいいのか。時期によっては、高校生が夏の甲子園に出場できないケースも考えられる。NPBだけでなく、日本高校野球連盟にも関わってくる話だ。
以上はあくまで可能性の話で、インターナショナル・ドラフトは中南米諸国を主な対象とする制度だ。ただし、いずれはその名の通りアジアにも及び得るものだと頭の片隅に入れておいた方がいいだろう。
議論が再開された時、どういう方向に向かっていくのか。その着地点を注視していきたい。
取材・文●中島大輔
「ドラフトの対象になる以前は、まだ準備のできていない選手がMLBと契約していた。本来は少年の頃から然るべき準備を行い、成熟した男になってからプロになるべきだ。1、2年でクビになるようでは意味がないだろ? しっかり英語の準備をしてアメリカのカレッジに行けば、ドラフトで指名されてより多くの契約金を手に入れることができる。それが、我々が持っているオプションだ。ドミニカ人は持っていない」
プエルトリコの対象は「ルール・フォー・ドラフト」であり、ドミニカやベネズエラとは置かれた状況が異なる。だが、インターナショナル・ドラフトの導入を考える際、レオンの指摘は参考になるだろう。 MLB公認代理人で、米国オクタゴン社の野球部門環太平洋部長・長谷川嘉宣はエージェントの立場からこう語る。
「アメリカの高校生がドラフトにかかる場合、『そういう契約金になるなら、僕は大学に行きます』という選択肢もある。いわば、交渉材料があるわけです。例えば現在の能力的には下位指名だとしても、その順位のスロットバリュー(順位ごとに設定された契約金)では獲得できないから、欲しい球団は上位指名にして高い契約金で獲る。そうした選択肢が選手側にもあるわけです。
でも、ドミニカやベネズエラの場合は違います。インターナショナル・ドラフトになると、ある意味で“絶対評価”になります。『この選手はこういう能力だから、この金額』となるけれども、実際問題として交渉の材料が一切なくなる。今は少なくとも、30チームと話をすることはできます。確かに金額の上限が決まっているとはいえ、球団ごとの環境も含めて選手に選択肢があります。それがドラフトになると、一気になくなる。そういう意味で反対意見もあるでしょう。いずれにせよ、我々が考えるより奥深い問題があると思います」
長谷川部長が言うように、確かに“部外者”が簡単に口を挟みにくい問題ではある。ドミニカにとって野球は主要産業であり、誇るべき文化で、貧困を脱出する手段だ。ベネズエラにとっても似たような意味合いがある。
ただし、インターナショナル・ドラフトは日本にとって無関係というわけではない。例えば大谷翔平クラスの選手が高校卒業後にメジャーを目指したいとなれば、その対象になることも考えられる。もちろん、大学や社会人のトップ選手にも関わる可能性がある。
「ドラフトをいつやるかによっても、影響は変わってくると考えられます」
長谷川部長がそう話すように、例えば日本のドラフトが行われる10月より前にインターナショナル・ドラフトが開催される場合、日本の学生で対象となる選手はいつまでに退部届を提出すればいいのか。時期によっては、高校生が夏の甲子園に出場できないケースも考えられる。NPBだけでなく、日本高校野球連盟にも関わってくる話だ。
以上はあくまで可能性の話で、インターナショナル・ドラフトは中南米諸国を主な対象とする制度だ。ただし、いずれはその名の通りアジアにも及び得るものだと頭の片隅に入れておいた方がいいだろう。
議論が再開された時、どういう方向に向かっていくのか。その着地点を注視していきたい。
取材・文●中島大輔