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高校野球

前代未聞のセンバツ決勝志願降板。近江のエース山田陽翔に見る「高校野球の采配」の在り方

氏原英明

2022.04.01

文字通りの力投をし、チームを決勝にまで導いた山田。そんなエースの志願降板を受け入れた指揮官は何を想っていたのか。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

文字通りの力投をし、チームを決勝にまで導いた山田。そんなエースの志願降板を受け入れた指揮官は何を想っていたのか。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

 指導者だけではない。選手の意識も少しずつ変化している。昨年のセンバツで、準決勝の登板を回避した天理のエース・逹孝太(現日本ハム)はこういったものだ。

「この1試合だけでよければ投げることはできた。でも、僕は長く野球をやりたい。メジャーリーグを目指しているので、無理をするのはこの試合ではないと思った」

 達と同じように、山田の降板志願は、いわば今の高校野球界の変化の証とも取れるのではないか。今回のセンバツは、変化するものと変化しないものとがくっきり分かれた大会とも言えた。

 1回戦で花巻東、2回戦で明秀日立を破った市立和歌山は、準々決勝の大阪桐蔭との一番で、それまで2試合を完投していたエース米田天翼を先発させなかった。

 結果は0対17の大敗。しかし、半田真一監督は試合後、こう語っている。

「できるだけ米田は投げさせないでいけたらと思っていました。今日までエースに頼っていたら、米田にしか頼れなくなってしまうと思うんですね。淵本(彬仁)は甲子園初先発の相手が大阪桐蔭さんでプレッシャーが大きかったと思うんですけど、そういう思いも込めて先発をさせました。試合には負けましたが、経験するのとしないのとでは違いますし、全国優勝を常に目指しているチームの力を知るということが選手には大きいと思います」
 
 どの指揮官も勝利を放棄しているわけではない。

 一人の投手では勝ち抜けない大会になっていると誰もが感じている。そのなかで指揮官にできるのは「一人の投手と心中する」のではなく、複数の投手を使いながら、大事な場面ではエースに託す戦いをすることなのだ。

 近江の山田が降板をしたのは、身体のどこかに痛みが走ったからではない。これ以上登板を続けていても、抑えるのは不可能だろうと感じてのものだった。

 勝利を考えた時に、エースが疲弊するまで投げさせるのか、それともエースを大事な試合で、それでも良いコンディションで投げさせるのか。それを熟考するのが指揮官の役目なのであろう。

 今大会はそういった意味で、エースがすべての責任を負うことなく敗れたチームは少なくなかった。これは時代の変化と言っていい。

 スローボールしか投げられなかった選手の高校と選手名はあえて伏せさせてもらったが、その選手のチームがいた監督も、今大会は試合の最後をエース以外に託して敗れている。

 近江・多賀章仁監督は今日の試合後、こう語っている。

「今日、山田を先発は回避すべきだったと思う。ここまで彼で勝ってきましたので、何とかと思ったんですけど、この夏もそうですが、将来を見据えた時に、今日投げさせるのは間違いだった」

 ベテランの多賀監督が、今大会を通して何を感じたかは想像に難くない。
 
 今大会、指揮官をも泣かせたほど獅子奮迅だった山田の降板志願をどう思ったのか。その答えの先に、高校野球の今後の采配のあり方が見えてくるのではないだろうか。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

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