12月２日深夜、ロックアウトが始まる直前に、ホイヤーは鈴木の代理人を務めるジョエル・ウルフにシンプルなメッセージを送った。「私たちのことを忘れないでほしい。こちら側であなたのことを待ち続けます」。

　ウルフによると、鈴木はカブスが示したこの敬意に感銘を受けていたという。

　99日間に及ぶロックアウトが終わった時、カブスは準備万端だった。ロックアウトで生まれた時間を十分に活用し、売り込み材料をまとめ上げた。リグリー・フィールドやシカゴの街、選手や家族向けのアメニティを紹介するPR動画、そしてもちろん天気の図表も。

「家で見て、涙するくらい本当に素晴らしいものだったので」と鈴木は入団会見で語った。
「すべてが最高でした」

　そして今、彼はその言葉をフィールド上でも証明しなければならない。

　というのも、昨年夏に16年のワールドシリーズ優勝メンバーを数多く途中放出して、チーム再構築に乗り出したカブスは、鈴木を彼らが呼ぶところの「次世代のカブス」の中心と位置づけているからだ。

　現在のロースターで、鈴木は他のどの選手よりも長い契約を交わしており、どこから見ても次代の優勝の中心となる選手として期待されていることが分かる。まだ、アメリカで１試合もプレーしていないにもかかわらず、だ。 「次の偉大なカブスを作り上げることについて、いろいろな話をした」とホイヤー編成総責任者は言う。「セイヤと５年契約を交わしたのは、チームの今後成功するために彼が重要な役割を担うと信じているからだ」

　現在27歳の鈴木はその役割を進んで受け入れようとしているようだ。そのことが、カブスを選んだ一因であるようにすら思える。

「アメリカでプレーすることが目標でした」と鈴木は言った。「いつも最高の選手になりたいと考えてやってきたので、今回はチャンスだと思っています」。

　カブスの脆弱なロースターを見れば、彼がチームで最高の選手になりうることは間違いなく明らかだ。

　しかし、それもプッシュボタンのように簡単にはいかない。

　６年前、カブスは球団史上最高額（６年１億8400万ドル）を投じてジェイソン・ヘイワードと契約した。ヘイワードに対する期待も、今回の鈴木と同じくらい大きかったが、彼は入団からの６年間、期待外れの成績に終始している。

　またシカゴのファンは、同じく日本から来て４年4800万ドルという大型契約で加入した福留孝介が期待に応えたのは最初の１ヵ月ほどで、結果的に失敗となってしまったこともよく覚えている。