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MLB

いずれは日本の高校生も対象に? MLBが構想する「インターナショナル・ドラフト」の“理想と現実”<SLUGGER>

中島大輔

2022.04.01

タティースJr.も警鐘を鳴らす国際ドラフト導入。いったいどんな影響力を及ぼすのだろうか。(C)Getty Images

タティースJr.も警鐘を鳴らす国際ドラフト導入。いったいどんな影響力を及ぼすのだろうか。(C)Getty Images

 予定より1週間遅れで日本時間4月8日、MLBは開幕を迎える。昨年オフからの労使交渉の長期的な泥沼化を避けられたのは何よりだが、ある重要なテーマが7月25日までの「継続審議」となった。インターナショナル・ドラフトだ。

 現状、アメリカ、カナダ、プエルトリコに居住して「ルール・フォー・ドラフト」、いわゆる新人ドラフトの対象になるアマチュア選手以外は、インターナショナル・フリー・エージェントとして各球団と自由に契約できる。だが、このインターナショナル・ドラフトでは現行のMLBドラフトと同様に全体1位指名権を持つ球団から順に選手を獲得し、しかも契約金の上限も設けるシステムである。

 このアイデア自体は約20年前から議論されてきたが、今回、労使交渉がまとまりそうな段階でMLB機構側が議題として持ち出した。その“見返り”としてFAのクオリファイング・オファー(※FAとなった選手に、球団側は1年契約の残留申請を出せる制度。該当選手が他球団に移籍した際、各球団の経済規模に応じてドラフト指名権などが譲渡される)の撤廃を掲げたが、選手会は受け入れなかった。

 とりわけ反対の声を挙げたのが、中南米の選手たちだ。ドミニカ共和国出身のフェルナンド・タティースJr.(サンディエゴ・パドレス)は、現地メディア『El Caribe』にこう話している。

「インターナショナル・ドラフトはドミニカの野球を殺すものだ。我々に大きな影響を及ぼすだろう。これまで多くの若手選手が契約金を得てきたが、ドラフトが導入されると状況は同じではなくなる」
 
 現在、メジャーリーガーの3分の1をラティーノが占めている。その多くがドミニカ共和国とベネズエラの出身者だ。彼らは母国で「プログラム」や「アカデミー」と言われる組織で才能を育まれ、16歳になるとMLB球団と契約できる。

 ドミニカの貧困や、国家崩壊危機が続くベネズエラの現実は、日本人にとっては想像し難いものだろう。ドミニカではバラック小屋のような居住環境に置かれた家族も珍しくなく、ベネズエラでは「バリオ」と言われる貧民街に多くの人が暮らしている。

 そうした場所で暮らす少年にとって一攫千金の手段は限られ、バットで明日を切り開こうと考える者が多くいる。MLB球団と契約できれば、家族に家を買い与えられ、両親や兄弟を含めて人生が一変するからだ。ドミニカにあるMLB球団のアカデミーを訪れると、多くの若手選手がそう話していた。

 こうしたシステムの根底を支えるのが、「ブスコン」や「トレーナー」と言われる者たちだ。日本語では「ブローカー」や「仲介人」「野球オヤジ」とも訳されるが、その中身はまさに玉石混交と言える。

「優秀な選手を発掘し、知り合いのスカウトを通じてメジャーリーグに売り込むんだ。入団が決まった場合、契約金の10%を手にすることができる」

 2013年2月にドミニカのエスタディオ・キスケージャの裏にある空き地を訪れた際、ボストン・レッドソックスの帽子をかぶった中年男性が、13歳くらいの少年たちを練習させながらそう話した。いわゆる「ブスコン」だ。
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