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MLB

「野球やってるなぁって感じが凄く楽しい」メキシコに近い田舎町で再起を期す安打製造機【秋山翔吾“最後の挑戦”:前編】<SLUGGER>

ナガオ勝司

2022.05.26

 こんな場面があった。秋山がヒットを放って一塁に出塁し、後続打者の打球が三塁線を破る当たりを放った。一塁走者の彼にとっては打球の行方を見ながら走れる絶好の打球だ。しかし――。

「打った瞬間、走りながら『俺の足、行けるのかな?』って思ってましたね。行かなきゃいけないって、野球人としての指令は(脳から)出てるわけですよ。でも、このコンディションで、そのスピードでホームまで行けるの? って、一進一退、考えながら走って、ホームまで還ってきて『ああ良かった、なんとか行けた』みたいな感じでした」

 マイナーリーグはいつも容赦がない。

 昨春のように、怪我のリハビリから復帰するための「調整」でマイナーにいるならともかく、今の彼は他の選手たちと同じように、結果を残してメジャーリーグに這い上がらなければらない立場だ。身体の状態がどうであれ、打撃の調子がどうであれ、容赦なく「結果のみ」を求められる。

 秋山は初出場からの4試合で、自分がそこにいる理由を言葉ではなくプレーで体現してみせた。
 
 5月14日のマイナー3戦目、彼は初回、左腕投手の外角へのスライダーを完璧に捉え、右中間越えのソロ本塁打とした。それはメジャー142試合で本塁打ゼロだった彼にとって、アメリカにおける初アーチだった。

「去年もマイナーで1本打ってるんですけどね」

 いささか不服そうに彼は言う。それは間違いではない。昨春、レッズ傘下AAA級ルイビル・バッツの一員として出場したオープン戦で、敵地球場のバックスクリーンに一発を叩き込んでいる。ただし、それは練習試合扱いなので、公式記録には残っていない。

「まあでも、その後の打席でもああいう形でヒットが出たから、まとまってヒットが出るとまた印象が違うと思います」

「ああいう形」というのは、二遊間に飛んだゴロを遊撃手がグラブの先に触って抜けていった当たりを指す。解釈としては「理想の打球ではなかったが、ヒットはヒット」。公式記録に「H=ヒット」と書き記されるのと、「E=エラー」と書かれるのは大違いだ。
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