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“途中解任された名将”マッドンの大先輩?ビリー・マーティンをめぐる愛と憎しみの“三角関係”【ダークサイドMLB】<SLUGGER>

出野哲也

2022.06.11

 実は、2人はその1年前にも同じように全米中継されている試合中にダグアウトでやり合ったことがあった。この時は、ジャクソンの守備での怠慢プレーに怒ったマーティンが懲罰交代を命じたことがきっかけだった。2年続けての監督とスター選手の衝突はメディアからも大きな注目を集めた。

 処分が明けた23日、取材に応じたマーティンは「ジャクソンが口を閉じない限り試合には出さん。それをジョージが気に入らないなら、俺をクビにすればいいだけだ」と息巻いて、さらにまくしたてた。「まったくお似合いの二人だな。一人は生まれつきの嘘つき、もう一人は前科者だ」。前科とは、スタインブレナーが元大統領リチャード・ニクソンに対する不正な政治献金で、オーナー資格を停止された前歴を指していた。

 たちまちマーティンはスタインブレナーの逆鱗に触れ、辞任に追い込まれた。会見では涙ながらに「ヤンキース、そしてファンに対して申し訳ない」と謝罪した。しかし奇妙なことに、スタインブレナーは6日後のオールド・タイマーズ・デーにマーティンを招待。しかも大観衆の前で「80年シーズンの監督、ビリー・マーティンです」と紹介したのだ。理解不能の茶番に憤慨したジョー・ディマジオは、二度とオールド・タイマーズ・デーに出ないと吐き捨てた。
 
 ともあれ、後任のボブ・レモン監督の下でヤンキースは驚異的な快進撃を続け、首位レッドソックスと同率首位でシーズンを終える。優勝決定戦は伏兵バッキー・デントが決勝本塁打を放ち、史上有数の大逆転を実現。ワールドシリーズでも2年続けてドジャースを下した。マーティンの失言は明らかにターニング・ポイントとなったのだ。

 野球という共通項がなかったら、マーティンとジャクソン、そしてスタインブレナーの人生が交差することはおそらくなかっただろう。カリフォルニア生まれの貧しく血の気が多いイタリア系、ペンシルベニア出身の饒舌で不遜な黒人、造船業で巨額の資産を築いた尊大なドイツ系ビジネスマン。それぞれが放つ強烈な磁力によって、3人はニューヨークの〝ブロンクス動物園〞へ引き寄せられた。

 最初にヤンキースと関わったのはマーティンだった。マイナー時代の上司だったケイシー・ステンゲル監督の推薦によって50年に入団、52年には正二塁手となった。だが、何度も乱闘騒ぎを起こしたりと、暴れん坊ぶりも相当だった。

 それでも、小柄ながらも闘志あふれるプレースタイルや大舞台での強さでニューヨークのファンからの人気は高かった。スーパースターのミッキー・マントルやホワイティ・フォードとも親友同士だった。しかし「紳士の球団」を自負するヤンキースの首脳にしてみれば、マーティンの奇抜で粗暴な行動はブランドイメージにふさわしくないものであり、ジョージ・ワイスGMは放出の機会を窺っていた。
 
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