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【MLBから何を学んだか】「お前が二塁に移ったら優勝できる」岩村明憲が名将マッドンから学んだ“人心掌握術”<SLUGGER>

氏原英明

2022.08.21

 2年目から岩村はロンゴリアにサードのポジションを譲ってセカンドにコンバートされているが、これを受け入れられたのは、メジャーで成功したいという気持ちとともに、マッドンからの言葉があったからだと岩村は言う。

「1年目のシーズンの最後の試合で、セカンドを守ってくれという話をされたんですけど、その時にジョーから、ロンゴリアを三塁で使うということだけでなく『アキ、お前がセカンドを守ってくれたら間違いなく優勝できる』と言ってもらったんですよね。

 僕はジョーを信頼していましたし、そんな方からそんな言葉をかけてもらったらやる気は出ますよね。ただコンバートだって言われただけなら受け入れられなかった。人心掌握術っていうんですかね。やる気にさせるのがうまかった」

 指揮官が絶対とする日本では、基本的には言う通りにするしかない。しかし、プレーするのは感情を持った人間だ。その気持ちを理解せずに指揮官は務まらないのである。そうした器の大きさを、岩村はマッドンからは感じたのだった。

 そうした経緯でセカンドとしてプレーし始めた岩村に、大きな事件が起こる。当時、アメリカでも話題となった2つの乱闘事件だ。これらを経て、彼はチームメイトからも認められた。
 一つめはスプリング・トレーニング中のできごと。ヤンキースとのオープン戦での守備中に、三塁強襲ヒットを放って二塁へ向かった選手から、岩村は太腿をスパイクされた。すると、チームメイトたちが飛んできてその選手にタックルをかけ、大乱闘が始まったのだった。

 岩村も加勢しようと思ったものの、怪我を負っていたためトレーナーから止められた。まだ危険なスライディングは禁止されておらず、「二塁手は狙われやすい」という現実をまざまざと思い知らされた形だった。傍目には暴力行為にしか映らない乱闘にも、アメリカらしい文化の一端が表れていると岩村は話す。

「僕にスライディングをしてきたやつがいて、その選手にチームメイトが突進していくんですよ。メジャーは『チームメイトは家族』という感覚があって、みんなが僕のために必死に戦ってくれたんです。それを見て、冷静に『自分は関係ない』とはなれないですよね。もちろん、乱闘を肯定するつもりはないんですけど、ネガティブではなくポジティブに捉えた場合、僕がチームの一員になれた出来事でもあったんです」

 2つめの“事件”は、シーズン中のレッドソックス戦でのことだった。レイズの先発投手の報復死球をきっかけに、両チームの選手が入り乱れての大立ち回りとなった。

「自分には関係ないとは言えない」と先に述べた通り、この時の岩村は傍観者にはならなかった。投手を助けるため、必死で乱闘の中心に入っていったのだ。その結果、岩村は3試合の出場停止処分を受けた。だが同時に、日本人選手らしからぬ奮闘により、チーム内での岩村の評価が上がったこともまた事実だった。
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