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プロ野球

「10割を求めたくなる」——パ・リーグMVP森友哉の才能に心底惚れ込んだ西谷監督の“思い”

氏原英明

2019.11.26

 高校入学後は1年秋からレギュラーをつかんだ。1学年上に藤浪晋太郎(現阪神)、澤田圭佑(現オリックス)らを擁したチームの中で、森は主に1番打者を務め、春夏連覇に貢献。最終学年になるとキャプテンも務め、つごう3年間で4度の甲子園出場を果たしている。

 名実ともに、森は高校屈指のスラッガーと言ってよかった。

 西谷は、そんな森を手元で育てるようになると、ある才能に長けていることに気づかされたと語っている。

「目が抜群に良くて、ボールを“捉える”能力が高いんです。ボールをミートするという単純な意味ではなくて、最後までボールをしっかり目で捉えて、アジャストする能力に長けていました。その能力だけで言ったら、うちの卒業生の中では一番だと思います。中村剛也(現西武)も高校時代は、バットで捉えるのがとても上手い選手でしたけど、それよりも上です。レベルの高い投手でも、そこそこついていける」

 野生の動物が獲物を捕らえるかのようなごとき眼光は、森が持つ持ち味の一つだ。

 今季リーグ2位の出塁率でその一端は証明されているが、対戦経験が少ない投手であっても臆することなくフルスウィングができるのだ。

 西谷はこうも語っている。

「10割バッターって世の中には存在しませんよね。打者にそんなことを求めるのは当然無理なことじゃないですか。ウチの卒業生の誰にもそんなこと求めたことはなかったんですけど、森には『10割打て』と言いました。例えば、練習試合で5打数4安打だったら、4安打を打ったことより『なんで、もう1本打てへんかったんや』って話をよくしました。それくらい高いレベルの要求ができる選手でした」
 西谷は、高校時代の森が凡打を打ったのをほとんど見たことがないという。もちろん、高校時代の打率が10割もあったわけではないから、記録上の凡打はたくさんあった。

 ただ、西谷は「数字の記録」を言いたいのではなく、相手投手に「本当の意味で打ち取られた打席」を見た記憶がないということだ。

「森が集中した時の打席は、本当にすごいバッティングをするんです」

 中学時代から木製を使いこなし、高校からは名だたる投手たちに対して、圧倒的な打棒を見せた。

 170cmの小柄なスラッガー。

 その足跡を辿れば、彼がパ・リーグMVPを獲得したのは納得の結果である。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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