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ダルビッシュ以外は知らないWBC決勝という「新しい景色」。若き侍ジャパンは「準決勝の壁」を破れるか<SLUGGER>

ナガオ勝司

2022.12.12

 このオフにレンジャーズと5年1億8500万ドルの大型契約を交わしたジェイコブ・デグロムや、2年8666万ドルでメッツ入りした今年のサイ・ヤング賞投手ジャスティン・バーランダーが怪我のリスクを冒してまでは出場しない。だが、そんなことは承知の上だ。

 トレイ・マンシーニ(アストロズ)やジョーダン・ロマーノ(ブルージェイズ)がイタリア代表で出場しようが、ジョク・ピダーソン(ジャイアンツ)やハリソン・ベイダー(ヤンキース)が、イスラエル代表として出場することも気にならない。出場資格の是非を問うのは野暮なこと。トミー・エドマンが韓国代表となることも、ラーズ・ヌートバー(ともにカーディナルス)が日本代表になることも歓迎すべきなのだ。

 なぜなら、WBCは「Fesrivity=お祭り」だからだ。「真の世界一を決める大会である」などと肩肘張らなくても、キャンプ地のクラブハウスでは選手たちがテレビ中継を見ながら、母国代表を声援を飛ばすことになるし、過去に出場した選手が「国を代表して戦うのは名誉なことなんだ」などと言えば、それですべてが肯定される。

 たとえば、ダルビッシュや大谷の元チームメイトでもあるイスラエル代表のイアン・キンズラー監督は、ウインター・ミーティングの際にこう語っている。

「2017年はアメリカ代表で出場したんだけど、最初の試合でノーラン・アレナードの激しいプレーを見たり、アダム・ジョーンズに鼓舞されるまで、この大会はユニフォームを汚すような試合じゃなく、親善試合のようなものだと思っていた」
 
 それはつまり、「大会前の考え方を改めて、全力を尽くした」という意味なのだが、だからこそ日本代表は「全力を尽くしたからと言って我々には勝てないよ」というメッセージを、アメリカの皆様に伝えてあげるべきなのだ。

 ワールドカップを終えた日本代表の森保一監督は、帰国後に出演した『報道ステーション』でこう語っている。

「『新しい景色』は、ベスト16の壁を破れなかったことで見ることはできませんでしたが、違った新しい景色、ドイツやスペインに逆転勝ちしたり、これまでになかった日本の新しい景色が見れたと思います」

 WBCを戦う侍ジャパンにとっても、それは同じである。

 我らが侍ジャパンにとって、東京での最初の第1ラウンドは、ワールドカップのアジア予選のように「勝ち抜いて当然」だが、次の準々決勝ラウンドはワールドカップ本大会のグループステージのように、「強豪国相手に互角以上の戦いをしなければ勝ち抜けない」と思う。

 第1ラウンド(プールB)で強敵となるのは韓国であり、オーストラリアやチェコ、あるいは中国相手に苦戦している場合じゃない。だが、台湾、オランダ、パナマ、キューバ、イタリアが群雄割拠するプールAを勝ち抜いてきた二強と対戦する準々決勝ラウンドは、そう簡単にはいかない。

 そうして辿り着いたアメリカ(今年はマイアミ)での準決勝は、今の「侍ジャパン」にとって、一つの「壁」である。

 サッカー日本代表が決勝ラウンド1回戦に勝ってベスト8に進出することがまだ見ぬ「新しい景色」だったように、過去2大会はいずれも準決勝の壁を破れないでいる侍ジャパンにとっては、「決勝戦に進出する」ことが「新しい景色」なのだ。

 09年の大会で胴上げ投手になったダルビッシュ以外に、WBC決勝の景色を見た者はいない。大谷や鈴木だけではなく、未来のメジャーリーガーと目される村上宗隆(ヤクルト)や山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)ら日本プロ野球(NPB)のスター選手たちが、マイアミでの準決勝に勝ち、決勝戦に進出することで、是非とも「新しい景色」を見届けてほしいと思う。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

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