●5位
タティースJr.にまさかの薬物スキャンダル
禁止薬物を使用する選手は後を絶たないが、8月にフェルナンド・タティースJr.(パドレス)が80試合の出場停止を受けたニュースは衝撃が大きかった。昨年、本塁打王に輝いただけでなく、華のあるプレースタイルや魅力的なルックスで「MLBの顔」の一人となっていたからだ。
昨年、パドレスと総額3億ドル以上の14年契約を結んだことでも話題を呼んだが、オフの不注意なバイク事故とこのスキャンダルによって出場ゼロ。これまでの活躍をクスリによるものと決めつけるのは短絡的でも、信頼回復への道は相当厳しい。
●4位
現役引退間近のプーホルスが通算700号本塁打達成
メジャーデビュー当時、プーホルスの完成された打撃術は「とても21歳とは思えない」と驚かれた。そして21年後の今季は、「とても引退直前の42歳とは思えない」と改めて驚きを与えた。6月末までは40試合で打率.198、4本塁打。閉幕を待たずフィールドを去ることも考えていたという。ところが7月以降は69試合で.314、20本塁打と、3度のMVPに輝いた全盛期を彷彿させる打撃が甦った。
一時は絶対不可能に思えた通算700本塁打は、あと10試合も残して9月23日に達成してしまった。「蝋燭の最後の灯」と形容するには余りに眩しすぎる閃光。現役を続ければバリー・ボンズの762本を抜けるかもしれないのに……そう惜しむ声が出るほど鮮烈な現役最終年だった。
●3位
アストロズが汚名を晴らすワールドチャンピオン
アストロズほど世界一を渇望していたチームはなかったのではないか。もちろん、2017年にワールドシリーズを制してはいる。だが、サイン盗みの発覚によって栄光は恥辱へ変化し、実力で勝ち取ったものではないように受け止められた。「本当の世界一」になるまで風当たりが弱まりはしなかったのだ。
だが、今季のアストロズは完璧だった。最強のローテーション、無敵のブルペン、穴の見当たらない野手陣。それを掌握するのは、これまた長い監督人生で一度も頂点に立っていなかったダスティ・ベイカーだった。ポストシーズンでは無敗でリーグ優勝、1勝2敗と先行されたワールドシリーズでも、第4戦の継投ノーヒッターから一気に3連勝。誰も否定できない強さで“真の世界一”を勝ち取った。 ●2位
大谷が“W規定”をクリア。二刀流は完成の域へ
アーロン・ジャッジ(ヤンキース)の大爆発がなければ、間違いなく2年連続MVPだったはずだ。「歴史的」という視点では、今季残した数字は未だかつて誰もなしえなかったものなのだから。昨年に続き「ベーブ・ルース以来〇年ぶり」「MLB史上初」といった記録をいくつも樹立したが、中でも価値が高いのは「W規定クリア」。規定投球回クリアが難関と思われた中、ラストスパートでイニングを積み上げ、最終戦で162投球回に到達した。
しかも、OPSリーグ6位、防御率4位と投打とも一流の成績。満票でMVPに選ばれた昨季よりも、二刀流の完成度では上だった。「去年よりいいシーズンになっている」との言葉は、その凄さを理解しきれていない人々へのプライドの発露にも思えた。
●1位
“クリーンな英雄”ジャッジがア・リーグ新の62本塁打
2022年のMLBで最大のトピックはこれ以外にない。開幕から本塁打を量産していたジャッジがロジャー・マリスのア・リーグ記録、そして薬物疑惑とは無関係の選手による最多記録でもある61本塁打へ届くかどうかが、ずっと注目を浴び続けた。終盤戦は四球攻めもあり、62号が出たのは閉幕1日前。ギリギリでの達成となったが、それもまた最後までファンの興味をつなぐことになった。
確かに、バリー・ボンズの持つ73本のMLB記録には遠く及ばない。しかし、ステロイドの助けを借りることなく、公明正大に新記録を打ち立ててくれる誰かが現れることを、長い間皆が待ち望んでいた。そしてその“誰か”となったのは、人間的にも非の打ち所がない、真にヒーローと呼ぶにふさわしい男だったのだ。
※『SLUGGER』1月号の記事を再構成
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
タティースJr.にまさかの薬物スキャンダル
禁止薬物を使用する選手は後を絶たないが、8月にフェルナンド・タティースJr.(パドレス)が80試合の出場停止を受けたニュースは衝撃が大きかった。昨年、本塁打王に輝いただけでなく、華のあるプレースタイルや魅力的なルックスで「MLBの顔」の一人となっていたからだ。
昨年、パドレスと総額3億ドル以上の14年契約を結んだことでも話題を呼んだが、オフの不注意なバイク事故とこのスキャンダルによって出場ゼロ。これまでの活躍をクスリによるものと決めつけるのは短絡的でも、信頼回復への道は相当厳しい。
●4位
現役引退間近のプーホルスが通算700号本塁打達成
メジャーデビュー当時、プーホルスの完成された打撃術は「とても21歳とは思えない」と驚かれた。そして21年後の今季は、「とても引退直前の42歳とは思えない」と改めて驚きを与えた。6月末までは40試合で打率.198、4本塁打。閉幕を待たずフィールドを去ることも考えていたという。ところが7月以降は69試合で.314、20本塁打と、3度のMVPに輝いた全盛期を彷彿させる打撃が甦った。
一時は絶対不可能に思えた通算700本塁打は、あと10試合も残して9月23日に達成してしまった。「蝋燭の最後の灯」と形容するには余りに眩しすぎる閃光。現役を続ければバリー・ボンズの762本を抜けるかもしれないのに……そう惜しむ声が出るほど鮮烈な現役最終年だった。
●3位
アストロズが汚名を晴らすワールドチャンピオン
アストロズほど世界一を渇望していたチームはなかったのではないか。もちろん、2017年にワールドシリーズを制してはいる。だが、サイン盗みの発覚によって栄光は恥辱へ変化し、実力で勝ち取ったものではないように受け止められた。「本当の世界一」になるまで風当たりが弱まりはしなかったのだ。
だが、今季のアストロズは完璧だった。最強のローテーション、無敵のブルペン、穴の見当たらない野手陣。それを掌握するのは、これまた長い監督人生で一度も頂点に立っていなかったダスティ・ベイカーだった。ポストシーズンでは無敗でリーグ優勝、1勝2敗と先行されたワールドシリーズでも、第4戦の継投ノーヒッターから一気に3連勝。誰も否定できない強さで“真の世界一”を勝ち取った。 ●2位
大谷が“W規定”をクリア。二刀流は完成の域へ
アーロン・ジャッジ(ヤンキース)の大爆発がなければ、間違いなく2年連続MVPだったはずだ。「歴史的」という視点では、今季残した数字は未だかつて誰もなしえなかったものなのだから。昨年に続き「ベーブ・ルース以来〇年ぶり」「MLB史上初」といった記録をいくつも樹立したが、中でも価値が高いのは「W規定クリア」。規定投球回クリアが難関と思われた中、ラストスパートでイニングを積み上げ、最終戦で162投球回に到達した。
しかも、OPSリーグ6位、防御率4位と投打とも一流の成績。満票でMVPに選ばれた昨季よりも、二刀流の完成度では上だった。「去年よりいいシーズンになっている」との言葉は、その凄さを理解しきれていない人々へのプライドの発露にも思えた。
●1位
“クリーンな英雄”ジャッジがア・リーグ新の62本塁打
2022年のMLBで最大のトピックはこれ以外にない。開幕から本塁打を量産していたジャッジがロジャー・マリスのア・リーグ記録、そして薬物疑惑とは無関係の選手による最多記録でもある61本塁打へ届くかどうかが、ずっと注目を浴び続けた。終盤戦は四球攻めもあり、62号が出たのは閉幕1日前。ギリギリでの達成となったが、それもまた最後までファンの興味をつなぐことになった。
確かに、バリー・ボンズの持つ73本のMLB記録には遠く及ばない。しかし、ステロイドの助けを借りることなく、公明正大に新記録を打ち立ててくれる誰かが現れることを、長い間皆が待ち望んでいた。そしてその“誰か”となったのは、人間的にも非の打ち所がない、真にヒーローと呼ぶにふさわしい男だったのだ。
※『SLUGGER』1月号の記事を再構成
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
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