専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
MLB

WBCの熱狂から遠く離れた場所で――泰然自若と開幕メジャーを目指す筒香嘉智の「今」<SLUGGER>

ナガオ勝司

2023.03.16

 打撃練習用のボールがなく、手持ち無沙汰になった筒香を助けてくれたのは、北海道日本ハムの特命コーチとしてキャンプに参加していた金子千尋氏だった。

 コーチ留学でレンジャーズの練習を手伝っていた金子は、筒香相手の打撃練習を手伝うことになった。そして、ボールが届くと、米国流の至近距離からポンポン投げる打撃投手のようにやるのではなく、マウンドの少し前まで距離を取り、日本の打撃練習に近い形で、しっかり足を上げて、実戦に近いタイミングになるように投げ始めた。

「今ぐらいでいい?」と力加減を尋ねる金子氏に、「はい。バッチリです」と筒香が応える。

 さすがは14年の沢村賞投手だ。打者を打ち取るのではなく、打者に気持ちよく打たせる抜群のコントロールで投げ込むと、筒香は気持ち良くバットを振り、軸足荷重の打撃で柵越え弾を連発してみせた。

「あんな感じで良かったら、僕はいつでも投げられるし、筒香君のためになればと思って投げました」

 そう金子氏は言う。筒香が新人の頃に本塁打を許したこともあったそうで、「打たれている記憶もある」と笑う。

「やっぱり威圧感と言うか、雰囲気はありますよね。体調もまだ万全じゃないだろうし、本来のものをまだ出してないなかでも、柵越えもあったし、あそこ(のコース)をあんなに上手くさばくんだというのもあったし。打撃は本当にすごいものを持ってるなと思いました」
 
 米国ではあまり細かい部分まで考えて投げている打撃投手はいないものの、日本ハムの春季キャンプの第1クールでも打撃投手を務めたという金子は、その点はかなり違っていた。

「(打撃投手は)難しいですね。自分では同じ球質で投げているつもりでも結構バラバラで、打者の人にはすごく申し訳ないな、と。今日も勝手にチェンジアップなっちゃったりしたし、そこはもう少し上手く投げたいなと思う」

 筒香はどう思ったか。

「いやもう、ほんと、大変ぜいたくな時間でした」

 キャンプに遅れて合流したがために生まれた「失われた時間」を取り戻したい彼にとっては、感謝してもし切れないほど、有意義な時間となったようだ。

「いい球でした。久しぶりにあの遠い距離からの打撃練習で……3年か4年ぶりぐらいかな? 本当に良かったです」

 打球の角度やスピードを確認するように、その行方を見守る筒香が、とても気持ち良くバットを振っているのが伝わってきた。

「僕が若い頃、1本だけ打ったけど、あとは全部、抑えられた印象です。僕がまだ一軍と二軍を行ったり来たりしているぐらいの時に、たまたま振ったらまぐれで当たって入った本塁打でした」
NEXT
PAGE

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号