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プロ野球

防御率「0.00」の村上頌樹って何者!?――25イニング連続無失点と“無双”する阪神ドラ5がこれまで低評価だった理由とは?

西尾典文

2023.05.06

大学時代に故障に悩まされると同時に、球威不足によって評価が低かったようだ。写真:THE DIGEST写真部

大学時代に故障に悩まされると同時に、球威不足によって評価が低かったようだ。写真:THE DIGEST写真部

 ひとつ大きかったのは故障である。4年春のシーズンはコロナ禍によって公式戦が中止となり、秋のシーズンでは開幕戦で右前腕の肉離れを発症して最終学年では結果らしい結果を残すことができなかったのだ。いくら前年まで素晴らしい成績を残していても、ドラフト会議直前に故障で投げられなかったとなれば、評価は下がるのも致し方ないところである。

 ただ、それ以上に大きな要因だと考えられるのがそのピッチングスタイルだ。大学でのストレートの最速は149キロと高校時代よりはスピードアップしていたが、それでも140キロ台後半をマークするのは1試合に数球ということが多く、ほとんどが140キロ程度にとどまっていたのである。それで抑えられるというのはもちろん凄いことではあるが、プロの強打者を相手にした時に球威不足が心配と考えたスカウトも多かったはずである。

 実際、プロ入り後も1年目から二軍では圧倒的な成績を残していたものの、ルーキーイヤーの2021年には一軍で先発した2試合はいずれも打ち込まれており、防御率16.88という数字に終わっている。昨年も二軍ではチーム最多の投球回を記録しているが、1年目に比べると成績は落としており、結局一度も一軍に呼ばれることはなかった。
 
 そんな村上が今年大ブレイクした理由としては、ストレートの平均球速が上がったことももちろんあるが、それ以上に大きいのは持ち味である制球力に更に磨きをかけたという点ではないだろうか。2年前はわずか2試合の登板であるが、全く狙ったところにコントロールできていなかった印象が強い。それが今年は捕手のミットが構えたところとは反対のコースにいくいわゆる“逆球”がほとんどなく、その精度は一軍でも間違いなくトップクラスである。また2年目は成績を落としたとはいうものの、四死球に関する数値は改善しており、ストレート以外の変化球も全て高いレベルの制球力を誇るというのも大きな武器だ。

 スピードを上げるとその反動から制球力が落ちる投手も珍しくないが、村上に関しては全く当てはまらないと言える。ちなみにドラフト指名後にインタビューをしたことがあるが、コントロールの良い理由については何か特別な秘密があるわけではなく、日々のキャッチボールから全てフォームを意識して投げることの積み重ねだと答えていた。プロで一軍の壁に跳ね返されても、その姿勢を貫いたことがスピードとコントロールの両立に繋がったのではないだろうか。

 ストレートが速くなったとはいえ、先発での登板では今のところ150キロを超えたボールはなく、プロの一軍のなかでは決してスピードがある方ではないというのは今も変わらない。ただそれでも安易にスピードアップを求めるのではなく、自分の武器も同時に磨き続けてきたことが現在の活躍に繋がっていることは間違いないだろう。スピード全盛の時代にあって、村上の活躍は改めてピッチングというものの奥深さを感じさせるものである。この快進撃がどこまで続くのか。今後もその緻密な投球にぜひ注目してもらいたい。

文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
 

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