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MLB

オークランドからラスベガスへ――“約束の地”を求め続けるアスレティックスは存在自体が極上のブルースだ<SLUGGER>

豊浦彰太郞

2023.05.30

 この球団の歴史が示す教訓は、地元ファンをつなぎとめるために大事なのは、長い再建と低迷期を経て数年の間強豪となることではなく、たとえ優勝できなくても、毎年終盤まではポストシーズンへの望みを残すこと、球団のハート&ソウルのスターはFAで本人から出ていくまで放出しないことだと思う。それらがなかりせば、ラスベガスに新球場を建てたところでダメだろう。

 個人的には、オークランドのアスレティックスが好きだ。コロシアムの殺伐ささえもブルースだ。12年に外野席の鳴り物応援団を取材したこともある。彼らと試合前に駐車場でテールゲートパーティーを楽しみ、試合中はカウベルを叩いてちょっぴり卑猥なヤジも飛ばした。

 応援団のリーダー格の人物いわく、「例えるなら、ジャイアンツファンはワインを、A'sファンはビールを好む。私はビール派なんだ」。

 まったく自由な人たちで、好きな時に来て好きな時に帰る。他の仲間には何も強制しない。年齢、性別、人種、社会的ステータスの面でも多様性に富んでいた。ヒッピー発祥の地で多様性をいち早く受け入れてきたベイエリアを象徴する集団だった。

 試合後は彼らと「出待ち」もした。この年、A'sは若手や新人の台頭で6年ぶりの地区優勝を果たす。大半が最低年俸の選手たちが乗っていたのは街道沿いの中古車ディーラーで数千ドルで買えそうな古い大衆車で「いつか大型契約をつかめよ」と願
わずにはいられなかった。
 ぼくはもう約半世紀もMLBを追いかけてきたが、気がつくと、どの球場も美しく快適なボールパークになっている。その中で、古くてボロくて、下水が逆流して汚物が流れ出したこともあり、いつもガラガラで、ファンはちょっとガラが悪い(まれにトイレが混んだ際、コンコースで用を足す御仁を見たと地元ファンから聞いた)コロシアムは稀有な存在だ。

 そして忘れてはいけないのは、トホホなネタが満載なだけではなく、過去6度のワールドシリーズ、2度の完全試合の舞台になった歴史に残るモニュメントでもあるということだ。日本のファンにとっても、フェンウェイ・パークやリグリー・フィールドとは別の意味で一度は訪れておくべき球場だ。

 低予算ながら時には金満球団の鼻を明かしたA'sのキャラと魅力は、オークランドという土地柄、コロシアムのハードボイルド感とセットでこそだと思える。その意味で、ベガス移転は現在のA'sのアイデンティティの喪失だ。転出はいたしかたなしだが、寂しさは拭えない。

文●豊浦彰太郎

著者プロフィール:北米63球場を訪れ、北京、台湾、シドニー、メキシコ、ロンドンでもメジャーを観戦。会社勤めの悲しさでポストシーズンは未体験。好きな街はデトロイト、球場はドジャー・スタジアム、選手はレジー・ジャクソン。「Yahoo!」「JSPORTS」でも執筆中。

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