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MLB

育成出身初のメジャーリーガー・千賀滉大は飽くなき探求者!? 伝家の宝刀”お化けフォーク”を開花させた『課題』をこなす姿勢

喜瀬雅則

2023.06.01

 その「3軍」という、千賀がプロ野球人生の第一歩を記した新たなる育成組織は、発足当時まだスタッフも少なく、運営スタイルも完全には固まっていなかった。練習前、グラウンドに掛けられたシートを、選手たちがはがし、水をまき、土をならした。ブルペンも、自分たちで整備した。だから、練習が始まる頃には、ユニホームの腹の部分に土や泥がつき、すでに汚れていたという。そうした厳しい環境の中で、千賀は少しずつ、薄い紙を一枚ずつ重ねていくように、その土台をじっくりと固めていった。

「高校では情報も知識もなくて、130キロくらいは投げていたんです。だから、それなりの環境、しっかりとした知識で練習すれば、と高校生なりに思っていました。実力がないことは感じていました」

「だからこそ、そこに入れば、自分自身もやることがたくさんあるし、伸びしろしか見えていませんでした。ホークス的に3軍制がなければ、僕を取っていなかったと思うんです。だから、タイミングや運もすごく感じます」
 
 そのたゆまぬ努力の姿を、間近で見続けてきた一人が、2023年現在、京都大学の野球部監督を務める近田怜王だ。兵庫・報徳学園高のエースとして、3度の甲子園出場を果たした左腕は、2008年ドラフト3位指名でソフトバンクへ入団。1軍での出場がないまま、4年で戦力外通告を受けた後、社会人の強豪・JR西日本でプレー。現役引退後は指導者への道を歩んでいる近田は、千賀の2年先輩にあたる。

 ある日、近田は練習後に千賀と食事に出かける約束をしていた。近田が先に店に着いた。なのに、後輩の千賀が一向に現れない。先輩を待たせるなど、縦社会の野球界ではあり得ない。待ち合わせの時間を少し過ぎた頃、千賀から電話が入った。

「すみません。今日やらなきゃいけないトレーニングが終わったら、すぐに行きますので」

 基礎体力が足りず、全体のランニングメニューからも離脱することが多かったという1年目、千賀には「1日1000回」の腹筋という、尋常ではないノルマが課されていた。「1年目は、めちゃくちゃキツかったです」と振り返った日々ながら、実はそれだけにとどまらず、自らウエートトレのメニューを組み、与えられた練習以外にも取り組んでいたのだ。先輩を少々待たせてでも、その『自分自身への課題』をこなすというその姿勢に、近田は「こいつは、ちょっと違うなと思いました。こういうやつが、伸びていくんだろう」と述べる。
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