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銃で命を落とした若き好打者ボストック。理由は妻の浮気を疑った夫の誤解だった――【エンジェルス悲劇の暗黒史】<SLUGGER>

出野哲也

2023.06.28

 球界は悲報に打ちのめされた。カルーは「信じることができない。彼はチームのみんなに好かれていたのに」と肩を落とし、エンジェルスのジム・フレゴシ監督も「これからミーティングをする予定だが、話す言葉が見つからない」と沈痛な面持ちだった。

 慈善活動に熱心に取り組み、時間がある限りサインの求めに応じていたボストック。高給を得るようになっても贅沢な暮らしを好まず、「高級車なんていらない。自動車は行きたい場所に行ければいいんだよ」と笑っていた、気取らないスターとの別れを誰もが惜しんだ。

 スミスは有罪なら30~60年の懲役刑となるはずだったが、心神耗弱での犯行と判断され、刑務所ではなく精神病院に入れられた。しかも2年も経たず、正気を取り戻したと見なされ自由の身になる。今もゲイリーに住むスミスは、マスメディアから何度となく取材やインタビューを申し込まれても口を閉ざしたままだ。
 
 殺人事件の犠牲になった現役メジャーリーガーは過去5人いて、うち3人は銃撃によるもの。全米ライフル協会が強力なロビー団体として存在することもあって、アメリカでは銃規制は一向に進んでおらず、21年には国内で4万8000人が銃器によって死亡したとされる。一般市民でも簡単に銃が手に入る環境が、その背景にあるのは疑いない。そしてまた、心神耗弱であれば殺人を犯しても罪にならない法制度や、被害者や遺族に対してろくに救済措置が講じられない現実も、多くの人にとっては理解に苦しむものだ。

 ボストックの悲劇が繰り返されることは、誰も望んではいない。だがアメリカ社会の銃に対する意識が変わらない限り、いつかまた犠牲者が出る日が来ないとは断言できない。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
 
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