佐藤は話す。

「１年目の成績を超えられなくて、なんでかなと振り返った時に１年目の頃は試合が終わっても練習していたなと。それでもう１回、やってみようと思ったのが始まりです。先輩たちも、山川さんや栗山さんはレギュラーになっても、遅くまで練習していた。そこをもう１回自分の中で、これでダメやったら仕方ないと思えるくらいやろうと」

　佐藤のような出場機会の少ない選手は１日の活動量が意外と少ない。試合という経験を積めないだけでなく、体を使っていないのだ。その状態で、試合後もレギュラーと同じように球場を後にしていたら、その差は開くばかりだ。

　練習を重ねてきたことは数字にも表れている。実は佐藤龍の成績で際立つのは打率だけではないのだ。９月のスタッツを見てみると、打率が.324あるのに加えて、出塁率は５割近く。OPS.950は堂々リーグトップなのだ。

「練習量をしっかり確保できたのが良かったのかなと。それがシーズン終盤になって生きてきたなと思います。特に、ボールの見え方が変わったとか、そういうことはないんですけど、追い込まれても困らなくなったので、しっかりボールを見れるようになりました」
  　１年間、練習を積み重ねてきた選手がこうやって結果を残すのはチームにとっても大きいだろう。もともと、西武の伝統は個人練習の量にある。佐藤も名前を上げたように、過去のレギュラーたちは必ず、練習に立ち返って自分を見つめ直してきた選手ばかりいたのだ。行動に移せる選手こそがレギュラーをつかんでいく。佐藤もそこに続いたというわけだ。

「打ったのはカットボールでした。ホーム最終戦っていう試合で、良い結果が出て良かったなと思います。チームの雰囲気もいいですし、監督、コーチみんながやりやすい野球をさせていただいているので好調が続いていると思います」

　開幕からベストメンバーがなかなかそろわず苦しい戦いを強いられた西武。５位に低迷して苦しいシーズンだったが、悪いことばかりではない。激しい争いの中から１人、ライオンズの顔になるべく選手が誕生したことはひと筋の光と言えるだろう。

取材・文●氏原英明

【著者プロフィール】うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『SLUGGER』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設。このほど、パ・リーグ特化のWEBマガジン「PLジャーナル限界突パ」を創刊した。

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