専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
侍ジャパン

【節丸裕一のとっておき話】「ありがとう、王ジャパン」と言って放送を終えると、涙が出てきた|第1回WBC後編

節丸裕一

2020.05.01

 1回表、日本打線がつながった。キューバ投手陣の乱調につけこんで、2つの押し出しと今江のタイムリーで4点先制。先発松坂は初回先頭打者ホームランで1点を失ったものの、4回までピンチを凌ぎ続けた。5回にリードを広げた日本だが、反撃を食らって1点差まで追い上げられた

 8回、抑えの大塚晶文が登場。ペトコ・パークに大音量で響いた『Hells Bells』には鳥肌が立った。『Hells Bells』は大塚が当時セットアッパーを務めていたパドレスのクローザー、ホフマンの登場曲。パドレスの本拠地ペトコ・パークが舞台だから、これ以上ない演出だった(後に大塚から「前もってホフマンに許可をもらっていた」と聞いた)。

 日本は9回、イチローのタイムリー、川﨑宗則の「神の手」で追加点を奪うと、代打の福留が準決勝に続いてまた打った。イチローの好走塁もあった。小笠原道大の犠飛もあった。10対5と突き放した日本が勝利を決定づけた。9回裏、大塚が最後の打者グリエルを空振り三振に斬って両手を突き上げた。余計なセリフを言うべきではないと考えていた僕は、「日本勝ちました。ワールドベースボールクラシック、初代チャンピオンは日本」と実況した。
 
 イチローが話していた「世界一を決める大会」で、松坂がひたすら追い求めていた「世界で一番」になった。MVPに選ばれたインタビューで「日本が一番だということを証明しにきた」と胸を張る松坂の表情は晴れやかで誇らしげだった。

 僕は普段は贔屓なくニュートラルな実況を心がけているが、この日ばかりは日本を応援する気持ちが完全に勝っていた。最後に「ありがとう、王ジャパン」と言って放送を終えると、涙が出てきた。そして、「終わってしまった」という脱力感を味わいながら、グラウンドに降りて行った。

 王監督、松中、大塚、松坂と話したことはよく覚えている。松坂と話しているところが日本の地上波で映っていたらしく、ホテルに帰ってPCを開くと、ものすごい数のメールが届いていて驚いた。日本の当時の盛り上がりは、帰国して多くの人から聞くまで実感できないでいた。

 デビッドソンの大誤審も、韓国戦での屈辱も、失点率でのギリギリでの準決勝進出も、終わってみれば、すべてが良くできたシナリオのようだった。

 夢だったような14年前の第1回WBC。僕の記憶からは死ぬまで消えない思い出だ。

文●節丸裕一

【著者プロフィール】
せつまるゆういち。フリーアナウンサー。早稲田大学を卒業後、サラリーマンを経てアナウンサーに転身。現在はJ SPORTSなどでプロ野球やMLB中継を担当。フジテレビONE『プロ野球ニュース』にも出演。

【PHOTO】日米で数々の金字塔を打ち立てたイチローの偉業を振り返る厳選ギャラリー‼
 

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号