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MLB史上最大のスキャンダル――100年前に全米を震撼させた「ブラックソックス事件」とは?【ダークサイドMLB】

出野哲也

2020.02.04

 8選手の他、5人のギャンブラーが不当な利益を得た詐欺罪で告発されたが、21年8月2日に下された判決は、証拠不十分により全員無罪であった。選手たちが胸を撫で下ろしたのも束の間、コミッショナーのケネソー・マウンテン・ランディスは翌日、8人全員を球界から永久追放するという厳しい裁定を下した。自らは加担していなかったウィーバーは、再三ランディスに復権を訴え出たが聞き入れてもらえず、皮肉にも競馬場での仕事を得てギャンブラーたちの落とす金で暮らすようになった。

 追放後、シコットは農場でのイチゴ栽培で生計を立て、ウィリアムズやフェルシュらは腕を買われて草野球の助っ人として小金を稼いだ。そしてジャクソンは故郷へ引っ込み、酒屋などを経営して残りの人生を過ごした。本人いわく、日本の大学からコーチとしてのオファーがあったとのことだが実現はしなかった。通算打率.356、若い頃のベーブ・ルースが憧れた強打者は、野球殿堂入りの資格すら認められず、その代わり『エイトメン・アウト』や『フィールド・オブ・ドリームス』などの文学・映像作品にインスピレーションを与える存在となった。
 
■ブラックソックス以前にも疑惑のシリーズがあった

 古代ローマ帝国の馬車レースから江戸時代の相撲に至るまで、スポーツは古今東西普遍的に、合法・非合法を問わず賭けの対象になってきた。健全なリクリエーションとして始まった野球も、人気が高まるにつれギャンブラーたちを引き寄せるようになった。メジャーリーグが誕生するずっと前、1865年の段階ですでにニューヨークの選手が100ドルを受け取って、ライバルのブルックリン戦に負けようとした例が知られている。

 言うまでもなく、プロスポーツ選手にとって敗退行為は最大のタブーである。彼らが得ている収入は、贔屓のチームや選手が全力を尽くし、勝負に勝つのを見るために観客が支払っている料金であって、その大前提が崩れると興行自体が成り立たなくなってしまうのだ。MLBの公式規則でも第21条において敗退行為の禁止が明記されており、たとえ実行しなくとも同意するだけで永久追放処分が科される。

 しかし、まだプロスポーツという概念が一般的でなかった19世紀から20世紀序盤にかけては、そこまで意識が高くはなく、目先の利益に飛びつく者も少なくなかった。ナショナル・リーグ結成2年目の1877年には、ルイビル・グレイズの4選手が永久追放になり、ナ・リーグの実質的創設者であるシカゴのウィリアム・ハルバートが腐敗の一掃を目指していたにもかかわらず、他ならぬ彼のチームのスター選手キャップ・アンソン本人が、自軍の試合に賭けている始末だった。当時はどの球場でもギャンブラーたちの姿を見られ、彼らに専用席を用意していたところさえあった。
 

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