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MLB

「それでメシ食ってるんだから、練習なんて当たり前でしょ」寛容に淡々と自分の流儀を貫いた福留孝介のメジャー生活<SLUGGER>

ナガオ勝司

2022.09.28

 当時、とても近くで取材した者として言えるのは、メジャーリーグでは、「正しい時に、正しい場所にいること」が大事なのだということだ(その事実は日本人選手だけに当てはまることではないので、それ以上は言及するつもりもないけれど)。

 他の多くのベテラン選手がそうであるように、彼にもまた、将来的に指導者になると期待されている、と旧知の記者から聞いた。そうなるための「才能」と言えるかどうかは分からないが、彼は現役時代から試合の全体像を眺めている人だった。

 現在のような極端な守備シフトが導入される前、彼は右翼を守る自分の前にいる二塁手や遊撃手の動きについて、「なんであんなところにいるのかな、とは思うよね」と「やんわり」漏らしたことがある。一塁走者がいて、バッテリーはダブルプレーが欲しかったのに、相手打者の打球方向の傾向をほとんど考えず、基本通りに二遊間を締めるだけ。案の定、一、二塁間に飛んできたゴロをグラブに当てて捕球できなかった。
 視野が広いこととの因果関係は分からないが、思慮深い人物でもあった。米国から日本に来た知人が時差ボケを隠しながら某アミューズメントパークに行くと、本人よりも早く体調異変に気がついて、ホテルに送り届ける。自らが主催するゴルフコンペに来たゲストには、どんなスコアであれ、必ず何らかの景品を持って帰ってもらう。そういうポジションにいる人にとっては珍しいことではないのかもしれないが、それらと似たような逸話を話してくれる彼の知人がとても多いことに、驚かされたものだ。

 そう言えば、ヤンキース傘下の3Aスクラントンでシーズンを終えた12年の秋、当時滞在していた田舎町で、ゴルフをすることになった。ところが馴染みのない田舎町では、パブリックコースを見つけるのが難しく、ようやく予約できたコースのレンタルクラブが、「超」が付くほど古かった。

「やべぇ」とは思ったものの、あとの祭りである。早朝から出かけたゴルフ場で申し訳ない気持ちになっていると、彼は「こういうレトロなクラブでやるのも面白い」と言い、颯爽とコースへ出かけて行った。こちらの失態に気を遣われたのか、「怒っても仕方がない」と諦めていたのか。いずれにせよ、彼は自分の力量には合わないグニャグニャのシャフトのクラブで快打を連発し、いつもと変わらぬ70台のスコアで回って、こう言った。
 
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