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MLB

藤浪晋太郎のMLB移籍には「ロマン」がある。アメリカでの開花を予感させる理屈抜きの期待感<SLUGGER>

ナガオ勝司

2022.12.07

「わざわざ安い契約なんか狙わない」と考えるのが普通だが、そこでプラスになるのが藤浪の日本での成績と、現行のポスティング制度だ。

 すでに方々で語られている通り、藤浪の近年の成績には「?」マークが付く。加えて、ポスティング制度は以前のように「入札額制限なし+最高入札額のチームのみと独占交渉(史上最高額は2011年オフにダルビッシュ有を入札したレンジャーズの5170万ドル=今なら70億円ぐらいか?)」というルールではないので、契約そのものも高額になる可能性は少ないし、譲渡金も驚くような額にはならない。

 現行制度の譲渡金は「契約意思のある全チームとの交渉が可能=契約の総額(年俸総額、契約金、バイアウトなど)に15%から20%まで3段階の比率を乗じた金額の合計額が譲渡金」というルールであり、20年にレンジャーズと2年630万ドルで契約した有原の譲渡金が124万ドルにしかならなかったことを考えれば、それ以上の金額になる可能性は高くない。

 ドジャースやアストロズのように「即戦力は当たり前。チームの柱」という過剰な期待に応えられず、冷や飯を食わされるより、投手陣の層が薄いレンジャーズや、19年のワールドシリーズ王者でありながら現在はチーム再建中のナショナルズ、あるいは先発、救援ともに頭数が揃っているとは言えないカブスのようなチームの方が、寛容に投球内容を見守ってくれるだろう。

 もう一つ、大事なのは、全12チームしかないNPBとは違って、MLBは全30チームあるので、意外なほど地区によって戦力差が違いがあるということだ。かなり、ぶっちゃけた言い方をすると、「『結果』を残しやすい地区と、そうではない地区がある」のだ。

 ドジャースやパドレス、ジャイアンツが群雄割拠し、他地区に比べて相対的に打線の良いナ・リーグ西地区や、ヤンキースやブルージェイズなど長打力のあるチームが多いア・リーグ東地区で、ピッチャーが「結果」を残すのは容易ではない。一方、「投高打低」でも地区優勝したブルワーズや、ガーディアンズが所属する両リーグの中地区は比較的「結果」を残しやすい環境にはある。
 
 今年プレーオフに進出したチームでも、カーディナルス(カブスやブルワーズと同じナ・リーグ中地区)やメッツ(同東地区)は、レッズやパイレーツ、ナショナルズやマーリンズといった打線の弱いチームと同じ地区なので、「結果」を残しやすいチームと言えるだろう。

 だから、藤浪のメジャー移籍には、「ロマン」がある。

 目先の契約に捉われず、チームとその所属地区の戦力をしっかり見極めて、確固たる「結果」を残すことさえできれば、15年のような「無双」状態になり、一攫千金を狙えるチャンスがあるのだ――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

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