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プロ野球

【キャンプ展望:西武】「一番のキーマンは僕なんかな」――西武・松井稼頭央新監督が目指す「野球の原点」<SLUGGER>

上岡真里江

2023.01.25

 また、秋季キャンプでは、カメラを搭載したドローンを使って打撃練習を上空から撮影し、選手の打撃フォームの動作解析を試した。先端技術にもしっかりとアンテナを張り、積極的に取り入れる姿勢は、新しい時代への変化を強く感じさせる。

 だが、こうした変化を一方的に押し付けるつもりは一切ない。すべて「選手に聞きながら」が大前提だ。

「僕たちが良いと思っていても、選手が別なことを取り入れてみたいと言うのであれば、そっちを取り入れることもあるでしょうし。とにかく一番は、どうすれば試合で選手がベストのパフォーマンスを出せるか。そのためには何をするか。その逆算を考えてもらいながら、ともにやっていきたいと思う」

 監督就任にあたり、松井監督は「コミュニケーションを最も大切にしたい」と強調している。選手、コーチ、スタッフとしっかりと意思疎通を図りながら、選手各々がその日のベストな状態で試合に臨めるよう、最大のサポートを惜しまないと誓う。

「一番のキーマンは僕なんかなと思いますけどね」と、新指揮官として自覚と責任は十分の松井監督。一般的に「二軍は育成。一軍は勝利」が最優先課題とされ、その両立は難しいとされているが、二軍監督時代に見てきた選手も多いだけに、やはりどちらも目指したい気持ちが大きい。
 
 すでに一軍で活躍している選手も含め、投手も野手も、「技術の向上など、何かに取り組んで個の力を伸ばすには、1ヵ月、2ヵ月では短いと思う。半年、一年としっかりと地道に積み重ねていくことで、秋に大きなものになってくると思う。そこは、そういう期間としてしっかりと見ていきたいと思っています」。

 その思いの根底には、自らの現役時代、プロ入り間もない頃の恩がある。PL学園では投手だったが、西武から野手としてドラフト指名され、入団と同時に内野手へ転向した。2年目の春季キャンプからはスウィッチヒッターにも挑戦。守備も打撃もまだ未完成だったにもかかわらず、当時の東尾修監督は大成を信じ、2年目の途中からレギュラーとして起用し続けてくれた。

「東尾監督でなければ今の自分はないと思います。いろんなコーチからの(反対)意見もあったと思うのですが、東尾監督が『こいつを』と思っていただいた。僕はもう、『何とか監督のために』という一心だけでやっていた。自分もそういう強い信念を持ってやっていきたい」

 選手に「監督のために」と思われる。それこそが監督として最高の理想だろう。そして、これまで積み上げてきた選手としての輝かしい実績、指導者としての姿勢、そしてその人間性から、すでに多くの選手、コーチ、球団関係者が「稼頭央さんのために」「稼頭央さんを“漢”にしたい」「稼頭央さんを胴上げしたい」と意気込んでいる。そう思わせる魅力があるのもまた、松井稼頭央なのだ。

 監督が決して簡単なポジションではないことは重々承知している。だが、現役時代「記者泣かせ」と言われたというほど誰よりも遅くまで練習し、トリプルスリーを達成、メジャーリーガーの夢を叶えた男である。どんな苦境からも決して逃げず、立ち向かい、乗り越え、必ずや目指す頂を極めるに違いない。

文●上岡真里江(フリーライター)

【著者プロフィール】
かみおかまりえ。大阪生まれ。東京育ち。スポーツ紙データ収集アルバイト、雑誌編集アシスタント経験後、横浜Fマリノス、ジュビロ磐田の公式ライターを経て、2007年より東京ヴェルディに密着。2011年からは、プロ野球・西武ライオンズでも取材。球団発刊『Lions magazine』、『週刊ベースボール』(ベースボール・マガジン社)などで執筆・連載中。
 

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