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MLB

「アメリカのスポーツ史を変えた男」マービン・ミラーが殿堂入り。“鉄の信念”を持つ男の功績と半生を振り返る

出野哲也

2019.12.09

「彼はとても正直な人物で、本当のことしか言わなかった」。ブルックス・ロビンソンはこのように言っているが、その率直で遠慮のない物言いは――理路整然としているだけになおさら――対立する陣営にとっては癪の種だった。オーナーたちの不興を買ったのは言うまでもなく、“古き良き時代”を懐かしむメディアからも反感を持たれた。ガチガチの保守派記者であるディック・ヤングは「選手たちはミラーに洗脳されている。まるでゾンビのように、盲目的に彼に従っているのだ」とヒステリックに書き立てた。

 ミラーは鉄よりも堅い意志の持ち主だった。誰とでもうまくやっていこうと考える性分ではなく、事実、うまくはやっていけなかった。彼は自伝の中で「ボウイ・キューン(第5代コミッショナー)は考えの浅いお人好し」「ジーン・モーク(ツインズ、エンジェルスなどの監督)は評価のしようのない負け犬」など、敵対する勢力を極めて強い調子で非難している。

 もちろんそれだけ不愉快な目に遭ったことも多かったのだろうが、あまり好感を与えるものではない。宿敵のキューンが殿堂に迎えられた後も(彼がそれに値するかどうかは極めて疑問ではあるけれども)「球界にとって有害な存在だった」と言い捨てた。90歳を超えても記憶力はまったく衰えることなく、舌鋒の鋭さも変わらなかった。
 
 本来ならば実現して然るべき殿堂入りの栄誉に浴していないのも、こうした言動などを考えれば分からないではない。「私を排除しようとしても、組合が球界に果たした役割は無視できない。殿堂入りなどしなくとも、私は十分に名を成したのだ」と言いながらも、心の底ではクーパースタウンに迎えられることを欲していたのは、言葉の端々から滲にじみ出ていた。

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 望みはかなわぬまま2012年に世を去ったが、没後7年、ミラーは8度の“落選”を経てついに殿堂に迎えられることとなった。ESPNの名物記者バスター・オルニーは「委員会は長年の過ちをやっと正した」とコメントし、MLB人気ライターのケン・ローゼンタールも「ついに! 素晴らしい知らせ」と感慨深げに語っている。

「分かる人には分かる」という言葉がある。しかしミラーの功績や偉業は、誰もが共有し、また敬意を持つ必要があるのではと、今回の殿堂入りの知らせを聞いて改めて感じている。

文●出野哲也

※『スラッガー』2017年8月号増刊『MLB歴史を変えた100人』より転載・加筆

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