一塁に入ったベリンジャーの代役としてセンターで起用されたタークマンは次第に打撃の調子を上げて打率は2割台後半、出塁率は3割台後半まで上げて、打線のカギを握る存在になりつつあった。一方の鈴木は、後半戦が始まると打率2割台前半、それまでトークマンと同等に高かった出塁率も3割台前半まで落ち込んでしまった。キャンデラリオを獲得し、②「再建モードの第2段階=頑張ればプレーオフを狙える球団」から、③「地区優勝もしくはプレーオフ進出を狙う球団」になったカブスで、鈴木の居場所がなくなったのは、当然の帰結だったと言える。
だが、まだ終わったわけじゃない。いや、まだまだ、これからが本当の勝負なのだ。件の「レギュラー剥奪」後、初の会見で、彼自身がこう言っている。
「目標を明確にして、そこに向かってただやっていく。今まではそこがボケていて、いろんなことを試しても失敗してばかりだったので、何をやったらいいのかな? っていう状態が続いていた。練習では本当にそんなに悪くない。ただ、試合になるとどうしても、打ちたいとか、力みが勝ってしまう」
そうなった理由は皮肉にも、彼自身の人一倍強い責任感や、チームを思う気持ちの強さだった。
「やっぱり、今シーズンに懸ける思いが強くて、最初に怪我もして、少なからず焦りっていうのはあった」
5年総額8500万ドルという大型契約、今季チーム2位の年俸1800万ドルに見合う活躍がしたいと望む気持ち。左脇腹の故障でWBCを辞退しただけではなく、4月の2週間をリハビリで過ごした悔しさ。長打を求められる打順で起用され続けることに応えたいという思い。それは胸を突き刺すような、彼の正直な言葉が物語っている。 「いろいろ上手くいかないことが続くと、どうしても先が見えなくなってきて、大丈夫かなこの先? みたいな不安になることもある。打席の中でも不安な気持ちで、どうせ打てないんだろうなとか、そういうような状態で入ることが増えていた。そうなるとなかなか、結果としてはいい方向にいかない」
広島時代、二軍から這い上がろうとしていた時や、一軍のレギュラーを狙っていた頃とは「違う悩みだった」、と彼は言った。
「でも、試合に出れないことでイライラして、その時間を無駄にするのは嫌だった。もう一度、今までやってきたことや、どうやって良くなってきたのかを整理して、野球に関係ない本も読んだりして、どうすればいい方向に行くのかなってずっと考えてやってきた。そう考え出してから、少し気持ちが楽になって、周りに惑わされることもなく、自分のやりたいことをしっかりできている......今はそんな感じですね」
苦しい胸の内をさらした翌日、鈴木はスタメンに復帰し、今季10号ソロ本塁打を含む3安打1打点と活躍した。
もちろん、それですべての暗雲が振り払われたわけではない。広島時代と今の鈴木に共通していることがあるとすれば、それはどんな状況であろうとも、彼が自分を諦めず、考え抜いて、もがき苦しみ、たとえ1ミリでもいいから、前に進もうとしていることではないか。
だから、結果がどうあれ、ここからの彼の闘いぶりを見る価値は絶対にある。
残り50試合足らずとなった今シーズンの行方を、一人の野球選手が遠い異国で生き残ろうとする様を、「とことん、やってみやがれ」と、少し前のめりになってでも、見届けてほしいと思う――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO
だが、まだ終わったわけじゃない。いや、まだまだ、これからが本当の勝負なのだ。件の「レギュラー剥奪」後、初の会見で、彼自身がこう言っている。
「目標を明確にして、そこに向かってただやっていく。今まではそこがボケていて、いろんなことを試しても失敗してばかりだったので、何をやったらいいのかな? っていう状態が続いていた。練習では本当にそんなに悪くない。ただ、試合になるとどうしても、打ちたいとか、力みが勝ってしまう」
そうなった理由は皮肉にも、彼自身の人一倍強い責任感や、チームを思う気持ちの強さだった。
「やっぱり、今シーズンに懸ける思いが強くて、最初に怪我もして、少なからず焦りっていうのはあった」
5年総額8500万ドルという大型契約、今季チーム2位の年俸1800万ドルに見合う活躍がしたいと望む気持ち。左脇腹の故障でWBCを辞退しただけではなく、4月の2週間をリハビリで過ごした悔しさ。長打を求められる打順で起用され続けることに応えたいという思い。それは胸を突き刺すような、彼の正直な言葉が物語っている。 「いろいろ上手くいかないことが続くと、どうしても先が見えなくなってきて、大丈夫かなこの先? みたいな不安になることもある。打席の中でも不安な気持ちで、どうせ打てないんだろうなとか、そういうような状態で入ることが増えていた。そうなるとなかなか、結果としてはいい方向にいかない」
広島時代、二軍から這い上がろうとしていた時や、一軍のレギュラーを狙っていた頃とは「違う悩みだった」、と彼は言った。
「でも、試合に出れないことでイライラして、その時間を無駄にするのは嫌だった。もう一度、今までやってきたことや、どうやって良くなってきたのかを整理して、野球に関係ない本も読んだりして、どうすればいい方向に行くのかなってずっと考えてやってきた。そう考え出してから、少し気持ちが楽になって、周りに惑わされることもなく、自分のやりたいことをしっかりできている......今はそんな感じですね」
苦しい胸の内をさらした翌日、鈴木はスタメンに復帰し、今季10号ソロ本塁打を含む3安打1打点と活躍した。
もちろん、それですべての暗雲が振り払われたわけではない。広島時代と今の鈴木に共通していることがあるとすれば、それはどんな状況であろうとも、彼が自分を諦めず、考え抜いて、もがき苦しみ、たとえ1ミリでもいいから、前に進もうとしていることではないか。
だから、結果がどうあれ、ここからの彼の闘いぶりを見る価値は絶対にある。
残り50試合足らずとなった今シーズンの行方を、一人の野球選手が遠い異国で生き残ろうとする様を、「とことん、やってみやがれ」と、少し前のめりになってでも、見届けてほしいと思う――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、
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