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MLB

西武復帰説も浮上した交渉の舞台裏。アメリカに引き留めた“夢物語”への微かな期待【秋山翔吾“最後の挑戦”:後編】<SLUGGER>

ナガオ勝司

2022.05.27

 ザワついた気持ちを落ち着かせてくれたのは、獲得意思を示していた日本の球団に対する、彼の思いを聞いたからかも知れない。

「去年も試合に出てない状況が続いていて、スプリング・トレーニングも全然打てなかったし、その中でもまだ秋山が必要と思ってくれていたことに驚きと言うか、どこかで誰かが見てくれているということなので、頑張らなきゃいけないなと思いました」

 秋山は言った。「結果が出てなくても誰かは見てるっていうのは、僕にとってはすごく大事なことだった」と。

 そんな言葉を聞いたから、というわけではないが、エルパソでの取材を終え、パイレーツの筒香選手を取材するためにメジャーリーグの華々しい舞台に戻ってきた夜、ふと思った。

 最後の勝負になるんだろうな、と。

 マイナーから這い上がるための、メジャー挑戦。もしかしたら、今頃は日本でプレーしていたかも知れない男の、アメリカでの最後の勝負だった。
 
 マイナーリーグでの「結果」はもちろん、メジャーリーグ歴に基づいた年俸調停権やフリー・エージェント権の有無など、さまざまなビジネス上の条件が整った時に起こるのが、「メジャー昇格」だ。チーム事情にも大きく左右されるし、メジャー昇格のための「40人枠」にも入っていない秋山にとっては、とても難しい挑戦になる。

 だが、もしも「その時」が来れば、我々はきっと、茶色と黄色のユニフォームを着ている日本人選手の姿を見て、何かを感じずにはいられなくなるだろう。

「パドレスから話をもらった時、『メジャーに上がったら、ダルビッシュさんの後ろを守れるんだ』ということを一番最初に考えました。それがすごくモチベーションになると思ったんです」

 秋山がそう言ったのは、件のシンシナティ取材でのことだ。

「メジャーに上がった時、ただセンターとか外野を守るってんじゃなくて、ダルビッシュさんの後ろで守れるのか? っていうのが、想像すると自分の励みになるし、それが僕の中ではかなり大きなものになる」

 マウンド上で躍動するダルビッシュ有と、どんな球でも捕ってやる! とばかりに、その姿を外野の芝の上から見守っている秋山翔吾。

 今はまだ夢物語のように思えるが、微かな予感と期待が、今日もアメリカの田舎町に湧き出している――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO
 

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