NBA

若きスターを巡るNIKEとFILAの勧誘合戦。なぜグラント・ヒルはFILAと契約するに至ったのか?

北舘洋一郎

2020.04.23

大型新人として注目を集めていたヒルには、NIKEとFILAがアプローチを仕掛けていたが、“ある理由”から最終的に後者との契約を決断した。(C)Getty Images

「FILA(フィラ)との取り組みを再開するんだ。スタートは2020年からだよ」

 そんな言葉をグラント・ヒルから聞いたのは、2018年のNBAファイナル、クリーブランドでのことだった。ヒルがフィラとエンドースメント契約を結んだのはNBAルーキーシーズンの1994年。そこから同ブランドの看板選手として活躍し、引退から5年が経過した2018年に両者は生涯契約を締結したのだ。

 ではNBA入り当時の彼はなぜ、そもそもフィラと契約するに至ったのか。ヒルは「(マイケル)ジョーダンがいる限りナイキとは契約したくない」とはっきりと声明した。これは明らかに、自分はジョーダンを超える選手になるんだという彼の意思表示であった。
 
「タイガー・ウッズと契約したことは20世紀で一番のナイキの功績だ。しかし、グラント・ヒルとの契約を獲得できなかったことは20世紀最大の失敗だったと後悔することになるだろう」

 当時のナイキの最高経営責任者のフィル・ナイトは、ヒルが95年のオールスターファン投票でルーキーとしてNBA史上最多得票数で選ばれた時の新聞を見てこうつぶやいたという。ナイキの広告代理店であるワイデン・アンド・ケネディー社で聞いた話だが、当時ナイキはヒルとの契約を勝ち取るために50人以上のチームを準備し、ジョーダンを継ぐナイキの新しい顔として迎え入れようとしていたのだ。

 ナイトは「ナイキはマイケル(ジョーダン)とともに大きな時代を作った。次にナイキに必要なのはマイケルの後継者ではない。マイケルのように自らの時代を切り開く人物だ」と言い、ヒルとの契約金として20億円以上を検討すると付け加えたそうだ。

 ヒルがNBA入りした1994年頃のアメリカはスポーツビジネスが好調で、過去最も景気がいい時期でもあった。NBA選手とスポーツブランドの契約という観点で言えば、カリーム・アブドゥル・ジャバー、マジック・ジョンソン、ラリー・バード、そしてジョーダンがNBAを盛り上げて市場価値を高め、その延長線上にいたヒルへの期待は大きくなっていった。
 
NEXT
PAGE
「契約条件が問題になったわけではなかった」