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NBA

選手、コーチ、フロントのすべてで成功を収めた唯一人の男、“レジェンド”バードの矜持【NBAレジェンド列伝・後編】

出野哲也

2020.06.11

卓越した頭脳と情熱を持ち合わせたバードは、80年代のNBAを牽引。セルティックスに3度の栄冠をもたらした。(C)Getty Images

卓越した頭脳と情熱を持ち合わせたバードは、80年代のNBAを牽引。セルティックスに3度の栄冠をもたらした。(C)Getty Images

■3度のNBA制覇を可能にした天才的バスケットボールセンス

 もしもバードがアスリートタイプの黒人選手だったら、成功を収めるのは割合簡単だっただろう。そうではなく、典型的な“跳べない白人”でありながら史上最高のフォワードとなった点に、彼の凄さが凝縮されている。ではどうやって彼は身体のハンディキャップを乗り越えたのか。主に理由は3つある。

 まず1つは、あらゆる方法で得点できたことだった。角度や距離、ガードする相手など一切選ぶことなく、レイアップにジャンプショット、スクープショットにフェイダウェイなど、最も適切なスタイルを瞬時に選択できた。天性のシュート能力があったのではない。誰よりも長い時間をかけてシュート練習を積み、オフシーズンには必ず新たなオフェンス方法を研究して身につけた、不断の研鑽の結果だった。

 2つ目は、比類なきバスケットボールセンス。フォワードでありながらポイントガードのようにゲームを組み立てられたのも、オールディフェンシブチームに3度も選ばれたのも、すべては並外れた感覚の鋭さによるものだ。

 作家のデイビッド・ハルバースタム曰く「バードは他の選手がどこにいるか、どう動こうとしているか、それに何秒かかるかを知っていた。バードの先を読む能力は、チームメイトを含むコート上のプレーヤーの心の動きを読む域にまで達していた」。

 そうした能力が最大限に発揮されたのが、87年のカンファレンス決勝、対ピストンズの第5戦だった。1点ビハインドで迎えた残り5秒の場面、ピストンズのインバウンズパスを飛び込んでスティールした上、完璧なパスをデニス・ジョンソンに送って逆転シュートに結びつけたのだ。バード以外の誰にもできないこの神業は、NBA史上最も偉大なプレーの1つに数えられている。
 
 そしてもう1つは、精神の強靭さである。名選手はほとんど例外なく負けず嫌いだが、バードもまた、勝負に対して激しい執念を燃やした。

「バスケットボール選手に何よりも必要なのは、成功を欲する気持ちだ。これは誰にも教わることはできない。何故かはわからないが、私にはそれが備わっていた」

 どんな状況でも冷静さを保ち、並外れた集中力でクラッチプレーを決め続けたのも、メンタル面の強さのおかげだった。「ラリーの意志の力は周りの選手にも影響した。彼を失望させてはならないと、みんな懸命だった」と当時のチームメイト、ダニー・エインジが語った通り、バードの存在は実際のプレーでも、精神的にもチームメイトの質を向上させていった。

 プロ入り1年目新人王に輝き、2年目にはセルティックスをNBAチャンピオンの座に導いたバードの全盛期は、史上3人目となる3年連続MVPに選出された1984~86年だった。フリースロー成功率を除いて、個人スタッツでリーグトップになった部門はなくとも、バードの総合的な能力がセルティックスの強さの原動力なのは明らかだった。84年と86年はファイナルMVPも受賞、81年と合わせて合計3個のチャンピオンリングを手にした。
 
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