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NBA1年目からブロック王に。スーダンが生んだ身長231㎝の“野生児”マヌート・ボル【NBAレジェンド列伝・前編】

出野哲也

2020.08.11

85年にデビューしたボルは231cmの長身を武器にディフェンスで存在感を発揮。1年目から平均4.97ブロックを叩き出し、タイトル王に輝いた。(C)Getty Images

■NBAを目指しアメリカに渡った身長231cmの野生児

 何とか再開に漕ぎつけた2019-20シーズンのNBAで、8月1日に1人の新人選手がデビューした。スーダン出身の20歳、デンバー・ナゲッツのボル・ボル。ちょっと変わった響きの名前を持つこのセンターの父もまたNBA選手だった。

 NBAで10年プレーしたマヌート・ボルの通算成績は、平均2.6点、4.2リバウンドでしかなかった。しかし彼の知名度は、そうした数字から想像されるよりもはるかに高かった。その理由はいくつかある。身長231cmで、NBA史上最も背の高い選手の1人だったこと。その長身を利して、ブロックショットを山のように積み上げたこと。そして現役引退後、母国スーダンのために人道的な活動に従事したことである。
 
「マヌートがフィラデルフィアの街に、わが球団に、そしてこのスポーツにもたらしたインパクトの大きさは、言葉では言い表わせない」(フィラデルフィア・セブンティシクサーズの元GM、エド・ステファンスキー)

 バスケットボール・コートの内外で、彼は文字通り大きな存在だったのだ。
 
 ボルは背が高いことで有名なディンカ族の出身である。

「父の身長は203cm、母は208cm。曾爺さんなんか240cmもあったらしいよ」

 どこまで真実なのかはわからないが、とにかく彼の身長が遺伝によるものだったのは間違いない。族長の家系だったボル家は比較的裕福で、150頭もの牛を飼育していた。少年時代に学んだのは読み書きではなく、牛皮の剥ぎ方や、牛を襲うライオンに槍を投げて仕留める方法だった。

 そんな正真正銘の野生児が、従兄弟の勧めでバスケットボールを始めたのは15歳の時だった。なにしろこの身長だから、リバウンドもブロックも思いのまま、ダンクをするのもわけはなかった。数年後、首都ハルツームで軍のチームでプレーしていた頃、スーダン・ナショナルチームのアメリカ人コーチに目をつけられたボルはアメリカへ渡った。

■長身の特性を存分に生かしNBA1年目でブロック王に

 まだ大学で1試合もプレーしていなかったボルを、1983年のドラフトでサンディエゴ(現ロサンゼルス)・クリッパーズは5巡目で指名した。もっとも、資格に不備があったためこの指名は無効とされる。84−85シーズンはブリッジポート大で平均22.5点、13.5リバウンド、7.1ブロックの目覚ましい活躍を演じ、マイナーリーグのUSBLでも25試合で平均11.2ブロックを記録した。