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元祖“二刀流”ダニー・エインジ。バスケットボールと野球、両分野でプロ選手となった“問題児”の人生【NBA名脇役列伝・前編】

出野哲也

2020.09.28

エインジはバスケと野球の両スポーツで才覚を発揮した“二刀流選手”だった。(C)Getty Images

 ともに長い歴史を持つNBAとMLBだが、両リーグでプレーした選手は過去に12人しかいない。そのなかの1人であるダニー・エインジは、バスケットボールだけでなく野球の分野でも将来を嘱望されるほどの逸材だった。元祖"二刀流"としてキャリアを送った男の人生に迫る。

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 現在"二刀流"と言えば、誰もが野球の大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)を思い浮かべるだろう。投手と野手の兼業は何十年もなかったことで、そのふたつを高いレベルで成し遂げたのは間違いなく凄まじかった。

 ただアメリカでは、種目の壁をも超えて二刀流、三刀流をこなすのはアマチュアレベルでは普通のこと。かつてはMLBとNBAの兼業選手も珍しくなかった。

 現時点で、NBAとMLBの両リーグでプレーした最も有名な選手はダニー・エインジだろう。ボストン・セルティックス、フェニックス・サンズなどで14年にわたり活躍したエインジは、MLBでもトロント・ブルージェイズで3年間プレーした経験を持つ"二刀流選手"だった。
 
■アスリートだった両親の血を継ぎ様々な競技で非凡な才能を発揮

「息子は小さい頃から、メジャーリーガーとカレッジバスケットのオール・アメリカンになりたいと言っていたんだ」

 当時を振り返るエインジの父ドンも、野球、バスケット、フットボールの3種目すべてでオレゴン州代表に選ばれたほどのスポーツマン。母のケイも優れた体操選手で、両親の遺伝子を受け継いだダニー少年が運動神経抜群なのは当然だった。

 またエインジにはダグとデビッドという2人の兄がいたのだが、彼らはどんなスポーツをする時でも弟に一切容赦をしなかったという。

「兄貴と1オン1をやっていても、絶対に最後まで続かなかった。必ず途中で喧嘩になってしまったからね(笑)」

 そんな毎日を送ることで、自然と身についたファイティング・スピリットは、やがてエインジの代名詞となる。

 ノースユージーン高校では、父と同じく野球、バスケット、フットボールですべて州のファーストチームに選出。ゴルフや水泳、ボウリング、さらにはチェスやバックギャモンといった頭脳スポーツでも才能を発揮し、学業成績も優秀だった。

 ただ、体格的にフットボールで大成するのは難しいと考え、バスケットボールを優先することを決意。モルモン教徒ということもあり、ユタ州のブリガムヤング大(BYU)に進学した。
 
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カレッジバスケとMLBで“二刀流”としてプレー