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“天使と悪魔の顔を持つ男”トーマスと“誰もが認める紳士”デュマース。対照的な2人が牽引したピストンズの盛衰【NBAデュオ列伝|前編】<DUNKSHOOT>

出野哲也

2022.10.10

対照的な性格を持つトーマス(右)とデュマース(左)。この2人が“バッドボーイズ”ピストンズに隆盛をもたらした。(C)Getty Images

 14年の時を経て、アイザイア・トーマスはNBAファイナル2004の舞台に立っていた。

 複雑な心境だった。本来ならGM(ゼネラルマネージャー)として、ニューヨーク・ニックスのメンバーを率いてこの場にいるべきだった。だが、彼にこの日与えられた役目は、デトロイト・ピストンズのOB代表として、始球式を務めること。スタンドの歓声はトーマスではなく、もっぱらこれからゲームを戦う選手たちにばかり向けられていた。

 古巣がロサンゼルス・レイカーズを粉砕するのを見守りながら、トーマスはふと観客席の上を見上げた。彼の眼に映ったのは、GMとしてこの素晴らしいチームを作り上げたかつての僚友、ジョー・デュマースの姿だった。
 
■バッドボーイズを率いた対照的なガードコンビ

 1980年代後半から1990年代初めにかけて、ピストンズほど怖れられたチームはなかった。反則すれすれのフィジカルなディフェンスで、彼らは"バッドボーイズ"の異名をとった。

 トーマスはバッドボーイズのリーダーだった。1981年にインディアナ大を全米制覇に導き、ドラフト2位でピストンズに入団。有能なプレーメーカーであると同時に、爆発的な得点能力を誇る傑出したスコアラーでもあった。彼は精神的な面でもチームを変えた。負けることに慣れきっていたピストンズに闘争心を注入し、チームは1983-84シーズン、7年ぶりに勝率5割の壁を破った。

 その1年後、1985年のドラフト18位で入団したのがデュマースである。無名校のマクニーズ州大出身ながら、ロサンゼルス五輪代表選考会にも招かれたほどの実力派として、スカウトの注目を集める存在だった。

 デュマースにとって、トーマスは憧れの選手だった。

「大学の頃、部屋にアイザイアのポスターを貼っていたんだ。同じチームでプレーできるなんて、思ってもみなかったよ」

 デュマースは練習でトーマスとマッチアップし、すべてを吸収した。

「練習ではもちろん、試合中でもアイザイアの一挙手一投足を食い入るように見つめていた。自分がコートに立っている時も、アイザイアの動きを追いかけていたほどさ」
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