NBA

アルコール依存症を克服し、古巣バックスで“復活”を果たした元オールスター選手ヴィン・ベイカー

杉浦大介

2019.11.29

ベイカーは2018年1月からバックスでACを務める傍ら、傘下のGリーグチームでも選手育成コーチとして若手を指導している。(C)Getty Images

 かつてNBAにはカムバック賞というものがあった。これは、ケガやスランプにより一度評価を落とし、その後復活した選手に送られるもので、現存していれば、昨季は元MVPのデリック・ローズが選出されたはずだ。一方、コーチでこの賞を選ぶのであれば、ミルウォーキー・バックスのアシスタントコーチ(AC)、ヴィン・ベイカーが真っ先に候補に挙がることだろう。

 2018年1月、ジェイソン・キッド(現ロサンゼルス・レイカーズAC)のヘッドコーチ退任に伴うコーチ陣の再編成で、ベイカーはバックスのACに就任。NBAだけではなく、傘下のGリーグチーム、ウィスコンシン・ハードでも選手育成コーチとして若手を指導している。これまでにクリスチャン・ウッド(現デトロイト・ピストンズ)、スターリング・ブラウンというさして前評判の高くなかった選手たちをNBAに送り出しており、これにより48歳のコーチの手腕は広く知られるようになった。

 だが、ほんの数年前には「ベイカーは破産してスターバックスで働いている」といったネガティブな報道が大々的に流れたばかりだった。そういった経緯を考えれば、彼の現状はさらに劇的に見えてくる。
 
 ベイカーは1993年のドラフト1巡目8位でバックスに入団すると、その後の数年は平均ダブルダブルが望める優秀なビッグマンとして君臨した。1997年にシアトル・スーパーソニックス(現オクラホマシティ・サンダー)にトレード移籍し、同シーズンには平均21.0点、10.3リバウンドをマーク。1995年から4年連続でオールスターに選ばれ、2000年にはアメリカ代表の一員としてシドニー五輪で金メダルを獲得するなど、全盛期はリーグ屈指のビッグマンとして活躍した。

 ただ、その栄光も長続きしなかった。転落の原因はアルコール。ベイカーは酒に溺れ、一時はゲームにも酔った状態で臨んでいたという。本人は飲酒した状態でゲームに出たことを"フリースローの精度を高めるためだった"と説明しているが、こんな破滅型のキャリアが長続きするはずもない。

「アル中のせいで力を失った。しまいには酒を飲まなければコートにも立てないようになってしまった」

 アルコール依存症の事実を隠して1999年にソニックスと8600万ドルという大型契約を結んだが、以降は年々成績が低下。ボストン・セルティックス、ニューヨーク・ニックスなど複数の球団を渡り歩き、ジャーニーマンとしてキャリアを終えることになった。