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NBA

バスケと料理の“二刀流”。ミシュラン三つ星を獲得した、アレクサンドル・マズィアの異色のキャリア〈DUNKSHOOT〉

小川由紀子

2021.03.01

(C)Matthieu Cellard

(C)Matthieu Cellard

 彼が料理に興味を持ったのは、祖父の影響が大きいという。大好きだった祖父は大西洋に浮かぶイル・ド・レ(レ島)で漁師をしており、子どもの頃からバカンスのたびに祖父の元を訪ねていた。祖父は昔ながらの漁師で、地元の人たちから尊敬される存在だった。多くは語らないが、たまに口から出る言葉には、いつも深い意味があった。

 祖父はいつも、珍しい素材を持って帰ってきた。アフリカでも祖父の家でも、彼の周りは新鮮で面白い素材にあふれていた。生まれ持った味覚センスに加えて、興味をそそられる素材に囲まれていたことが、彼を食の世界へと導いたのだ。

 選手を引退してから1年半ほど、富豪のお抱え料理人として世界中を周り、日本を含めた世界各国のハイレベルな食に触れたことも、今のマズィア氏を作る上で大きな経験となっている。いくつもの小皿料理を出す彼のレストランのスタイルは、大阪で味わった懐石料理から得たアイディアだそうだ。調理にも、ワインの代わりにみりんや日本酒を使ったり、味噌などの発酵食品、貝で出汁をとるといった、和食の手法を取り入れている。
 
 そして2014年、マズィア氏は38歳で南仏マルセイユに『AM』をオープンした。日本代表の酒井宏樹や長友佑都が所属するサッカークラブ、オリンピック・マルセイユの本拠地ベロドロームのすぐ近くで、選手たちも常連らしい。とりわけ酒井はマズィア氏のお気に入りのプレーヤーだそうだ。

 “AM”は自分のイニシャルであるだけでなく、フランス語で“魂”を意味する“Âme”にもかかっている。“自分の真心を料理してお出しする”という気持ちを込めたものだ。

 彼の店にメニューはなく、料理はいわゆる“即興”。仕入れ先にはなんの注文もせず、届けてもらった旬の素材でその日の気分で作る。なので、同じものが出てくることはまずない。

 スモークしたうなぎとチョコレートを合わせたり、食用花を散りばめたり、見た目にも素材にもオリジナリティがある。“これまでにない体験をしてもらう”というのが『AM』のコンセプトで、ある料理ライターは「料理を食べて美味しさのあまり涙したのは、どれくらいぶりだったろう」とレビューしていた。
 
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