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NBA

「ただバスケットボールが好きだからプレーする」個人の成功よりチームの勝利を追求し続けた選手の鑑ストックトン【レジェンド列伝・後編】<DUNKSHOOT>

出野哲也

2023.02.23

注目されることを好まずコート外でもマローンを“アシスト”

 チャンピオンリングは手にできなくとも、ストックトンはその後も優秀なプレーヤーであり続けた。40歳になっていた現役最終年の2002-03シーズンも、7.7アシストはリーグ5位(出場時間あたりの本数では1位)。総合的な攻撃力の指標であるPER(Player Efficiency Rating) は21.0で、ポイントガードでは5位の高水準だった。この年を含め、19年間で全試合出場が17年。体力も実力も衰えを見せぬまま、ストックトンは静かにユニフォームを脱いだ。

「ストックトンが持っている記録が、他にもう一つある」と『シカゴ・トリビューン』紙記者のサム・スミスは指摘する。

「彼ほどインタビュアー泣かせの選手はいなかった。取材を拒否したり、無礼な態度を取ったりはしないけれど、気の利いたコメントはないし、プライベートに関することも話さない。要するにネタにならないんだ」

 必然的に、記者たちは話し好きのマローンに群がることになる。こんなところでもストックトンはマローンをアシストしていたわけだ。

 けれども、彼が面白みのない堅物だったわけではない。遠征の移動の飛行機などではコーチやチームメイトの物真似をして笑わせるのが得意という、隠れた一面も持っていた。ただ単に、注目を浴びるのを好まなかっただけなのだ。
 
 プレースタイルにもそうした性格が現われていた。クロスオーバー・ドリブルやビハインド・ザ・バック・パスのような、観客受けするプレーに背を向けて、ひたすら精度の高いパスを送り続けた。練習では見せたことのあるダンクも、試合では決してしなかった。

 派手なプレーに目を奪われがちなファンには退屈に映ったかもしれないが、UCLAの伝説的コーチであるジョン・ウッデンが 「NBAで最も見ていて楽しい選手」としてストックトンの名を挙げたように、玄人を唸らせるという点では誰にも見劣りしなかった。

 ストックトンはあらゆる意味で昔気質の選手だった。プレーは教科書に載せられるほど基本に忠実、ユニフォームも最後まで80年代スタイルのショートパンツを穿き続けた。契約更改も代理人を雇わず、オーナーとの直接交渉で決めていた。もちろんタトゥーや奇抜なヘアスタイルとも無縁だった。

「金を稼ぎたいとか、有名になりたいのではなく、ただバスケットボールが好きだからプレーする。ジョンとはそういう男だ」

 長年のコート上の師であったジェリー・スローンは敬意を込めてそのように言っていた。 個人主義に染まりきった現代のNBAに、最も必要なのはストックトンのような選手ではないか。

文●出野哲也
※『ダンクシュート』2008年5月号原稿に加筆・修正
 
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