この予行演習が功を奏したか、ピアースはすぐにNBAに順応することができた。同期で新人王を受賞したヴィンス・カーター(元トロント・ラプターズほか)ほどの身体能力はなかったが、ディフェンスの隙をついてインサイドに切れ込み、ファウルを誘ってフリースローで着実に得点。守備でも相手の攻撃パターンを読みきってスティールを決めるなど、バスケセンスの良さを随所で覗かせ、「彼はベテランのような落ち着いたプレーをする」(クリス・マリン/元ゴールデンステイト・ウォリアーズほか)と高い評価を得る。平均16.5点はチーム3位、合計791点は堂々の1位だった。
ところが、ピアースの加入にもかかわらず、セルティックスの成績は思ったようには伸びなかった。その理由のひとつが、ピティーノが選手たちの信頼を失ったこと。若いとはいえ、れっきとしたプロであるセルティックスの選手たちを、ピティーノは学生に対する感覚で指導して反感を買ったのである。
なかでも、とりわけピティーノとの関係がこじれていたのがウォーカーだった。1998-99シーズンはロックアウトのために開幕が大幅に遅れたが、その間ウォーカーはコンディション調整を怠り、万全でない状態で開幕に臨んでしまったのが原因だった。調整の失敗で成績は下降し、ピアースの台頭もあって、チームのエースの地位すら怪しくなる。負けず嫌いのウォーカーの性格を考えれば、ピアースとの仲が険悪になってもおかしくなかったが、意外にもそうはならなかった。
2人は友人同士ではあったが、ライバル意識も相当なものだった。試合ではお互いに相手より1点でも多く取ろうとしたし、ウォーカーは契約交渉で「ピアースより必ず金額が上になるような契約を結べないか」と言い出すほどだったが、それでも友情が保たれていたのは、2人の性格によるところが大きかった。
「ウォーカーは“陽”、ピアースは“陰”」とある記者が表現したように、ウォーカーは目立ちたがりで出しゃばりだが、新人選手や裏方を食事に誘ったりする気のいい一面を持っていて、皆から好かれていた。あまりスポットライトを好まないピアースにとっては、ウォーカーがこのような役割を演じてくれるのはありがたかった。
「トワン(ウォーカーの愛称)はたまに感情的になることもあるけど、それは彼が情熱を込めてプレーしているからなんだ」
ウォーカーがテクニカルファウルを取られて非難されると、ピアースはそう言って彼を擁護した。何より、名門チーム再建の責務が自分たち2人の肩に乗っていることを彼らは自覚していた。そうした肝心な部分で、彼らの意識は完全に一致していたのだ。(後編に続く)
文●出野哲也
※『ダンクシュート』2006年12月号掲載原稿に加筆・修正。
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ところが、ピアースの加入にもかかわらず、セルティックスの成績は思ったようには伸びなかった。その理由のひとつが、ピティーノが選手たちの信頼を失ったこと。若いとはいえ、れっきとしたプロであるセルティックスの選手たちを、ピティーノは学生に対する感覚で指導して反感を買ったのである。
なかでも、とりわけピティーノとの関係がこじれていたのがウォーカーだった。1998-99シーズンはロックアウトのために開幕が大幅に遅れたが、その間ウォーカーはコンディション調整を怠り、万全でない状態で開幕に臨んでしまったのが原因だった。調整の失敗で成績は下降し、ピアースの台頭もあって、チームのエースの地位すら怪しくなる。負けず嫌いのウォーカーの性格を考えれば、ピアースとの仲が険悪になってもおかしくなかったが、意外にもそうはならなかった。
2人は友人同士ではあったが、ライバル意識も相当なものだった。試合ではお互いに相手より1点でも多く取ろうとしたし、ウォーカーは契約交渉で「ピアースより必ず金額が上になるような契約を結べないか」と言い出すほどだったが、それでも友情が保たれていたのは、2人の性格によるところが大きかった。
「ウォーカーは“陽”、ピアースは“陰”」とある記者が表現したように、ウォーカーは目立ちたがりで出しゃばりだが、新人選手や裏方を食事に誘ったりする気のいい一面を持っていて、皆から好かれていた。あまりスポットライトを好まないピアースにとっては、ウォーカーがこのような役割を演じてくれるのはありがたかった。
「トワン(ウォーカーの愛称)はたまに感情的になることもあるけど、それは彼が情熱を込めてプレーしているからなんだ」
ウォーカーがテクニカルファウルを取られて非難されると、ピアースはそう言って彼を擁護した。何より、名門チーム再建の責務が自分たち2人の肩に乗っていることを彼らは自覚していた。そうした肝心な部分で、彼らの意識は完全に一致していたのだ。(後編に続く)
文●出野哲也
※『ダンクシュート』2006年12月号掲載原稿に加筆・修正。
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