ヨキッチには、バスケの他に目がないものがある。競馬だ。それも荷車のついた、古代ローマ時代の映画に出てくるようなレースだ。セルビアの、とりわけヨキッチの生まれ故郷のあたりではこのレースが盛んで、彼は近所の仲のいいおじさんたちの影響もあって、10歳くらいの頃からのめり込んでいた。
バスケシーズンが終わった初夏から秋にかけての3か月は、ヨキッチはバスケットボールの練習は一切せずに、競馬場に入り浸っていたという。そうしてトレーニングなしでプレシーズンを迎えることも、ルディッチHCは織り込み済みだった。
『スポルツキ・ズルナル』で25年間バスケットボールを担当するベテランのプレドラグ・サリッチ記者は、「成長過程でルディッチのような指導者と出会えたことは大きい」と話す。
「ともすればバスケットボールへの興味を失っていたかもしれないし、型にはめられていたかもしれないところを、自由を与えることで彼の良さを伸ばした。当時からゲームを読み取る力が卓越していたヨキッチの才能を存分に生かす指導をしてきたことが、今の彼のプレースタイルの土台になっているんだ」
NBAのスターになった今も、ヨキッチはシーズンが終わるとすぐにソンボルにとんぼ帰りしてくるのだという。そして高校時代からのガールフレンドと連れ立って、競馬場に行くのが何よりの楽しみだそうだ。ここに集まる人たちは、サッカーやバスケといった他の競技にはまったく興味がなく、ヨキッチを見ても馬の話しかしない。だからヨキッチにとってもスイッチをオフにして、リラックスすることができるのだ。
「彼はもともと自然体の好青年で、パーティーといった派手なことにもまったく興味がない。有名選手になってもまったく変わらない、素朴な人柄だ」とサリッチ記者はヨキッチの印象を語る。
2、3年前、タブロイド紙にあらぬゴシップを書かれて以来、会見以外では話さないとヨキッチは決めたそうだが、NBAで築いた地位からは想像がつかないほど、地に足がついた青年なのだという。
「それにセルビアではまだまだ、彼はスーパースターじゃない。この国の人々は“勝者”を好む。MVPよりも、優勝のタイトルを獲ったとき、人々は真のスターとしてヨキッチを崇めるようになる」
ヨキッチ自身もMVP受賞後「欲しいのはMVPよりもタイトルだ」とコメントしていた。NBA史に残るであろうユニークな逸材は、この先も進化を続けていく。その過程でチャンピオントロフィーを手に入れるチャンスも、必ず訪れることだろう。
文●小川由紀子
バスケシーズンが終わった初夏から秋にかけての3か月は、ヨキッチはバスケットボールの練習は一切せずに、競馬場に入り浸っていたという。そうしてトレーニングなしでプレシーズンを迎えることも、ルディッチHCは織り込み済みだった。
『スポルツキ・ズルナル』で25年間バスケットボールを担当するベテランのプレドラグ・サリッチ記者は、「成長過程でルディッチのような指導者と出会えたことは大きい」と話す。
「ともすればバスケットボールへの興味を失っていたかもしれないし、型にはめられていたかもしれないところを、自由を与えることで彼の良さを伸ばした。当時からゲームを読み取る力が卓越していたヨキッチの才能を存分に生かす指導をしてきたことが、今の彼のプレースタイルの土台になっているんだ」
NBAのスターになった今も、ヨキッチはシーズンが終わるとすぐにソンボルにとんぼ帰りしてくるのだという。そして高校時代からのガールフレンドと連れ立って、競馬場に行くのが何よりの楽しみだそうだ。ここに集まる人たちは、サッカーやバスケといった他の競技にはまったく興味がなく、ヨキッチを見ても馬の話しかしない。だからヨキッチにとってもスイッチをオフにして、リラックスすることができるのだ。
「彼はもともと自然体の好青年で、パーティーといった派手なことにもまったく興味がない。有名選手になってもまったく変わらない、素朴な人柄だ」とサリッチ記者はヨキッチの印象を語る。
2、3年前、タブロイド紙にあらぬゴシップを書かれて以来、会見以外では話さないとヨキッチは決めたそうだが、NBAで築いた地位からは想像がつかないほど、地に足がついた青年なのだという。
「それにセルビアではまだまだ、彼はスーパースターじゃない。この国の人々は“勝者”を好む。MVPよりも、優勝のタイトルを獲ったとき、人々は真のスターとしてヨキッチを崇めるようになる」
ヨキッチ自身もMVP受賞後「欲しいのはMVPよりもタイトルだ」とコメントしていた。NBA史に残るであろうユニークな逸材は、この先も進化を続けていく。その過程でチャンピオントロフィーを手に入れるチャンスも、必ず訪れることだろう。
文●小川由紀子