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NBA

“明確な役割”と“自身への信頼”。NBA挑戦が失敗に終わったヤン・ヴェセリーに足りなかったもの

小川由紀子

2020.07.11

 その試合から少し経ってから、オブラドビッチHCはヴェセリーに電話をかけてこう話したという。

「君のフリースローが1/10だったことなど私は気にしていない。それ以上に、君はチームに貢献してくれている。君がいてくれたから、ファイナルに進出できるくらいのシーズンを送れたんだ。だから0/20だったとしても私は構わないよ。ただ、ひとつ知っておいてほしい。これは心理的な問題だということをね。フリースローラインに立って、いつも通り打てば入るはずなんだ。だって君のシュートフォームは、とても綺麗なのだから」

 これは嘘やはったりではなかった。この当時でさえ、ヴェセリーは練習では100本中90本以上はネットに収めていたからだ。

 この会話の後、ヴェセリーのフリースロー成功率は飛躍的に向上していくのだが、それは単にシュート力が改善したわけではないと本人は語っている。
 
「あの会話で、いかにコーチが自分を信頼してくれているかを実感した。指揮官がそれほど信頼してくれているとわかったら、それがさらなるモチベーションになる。彼との会話は、僕にあらゆる点でもっともっと成長したいという意欲を与えてくれたんだ」

 いつ何時でも、求められるポジションで求められるプレーをこなす。それができるかできないかが、選手の能力を判断する材料になり、成功するしないを分ける。そしてそれが、世界最高峰のNBAで生き抜く厳しさでもあるのだ。

 しかし一方で、使う側もプレーヤーの特性を生かせる役割を与えることで、十二分に能力を発揮させてやれる。そうすることが選手の才能開花につながるだけでなく、チーム全体の戦力アップにもなっていく。

 自分の持ち味を有効に使ってくれる指導者や、相性のいいチームメイトに出会えるのは選手の持つ“運”でもあるし、指導者の力量でもある。過去に優勝したチームを紐解けば、そのあたりが自然と噛み合っていたに違いない。

 ヨーロッパ出身選手のNBA挑戦について、「欧州である程度のキャリアを積んでから挑戦したほうがいい」、と経験者たちは語る。ただ、ヨーロッパですでにスター選手になってから、アメリカで若手に交じって“ルーキー”扱いされ、責任ある主力だったのがベンチ要員となることで、やる気を失うケースも多々あるだろう。
 

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