日本代表

【ブカツへ世界からの提言】心を開かせる「対話」を。ザッケローニたち名将もそうだった――日本の“悪しき伝統”をイタリア人指導者はどう見る?

THE DIGEST編集部

2022.06.26

かつて日本代表も指揮したザッケローニ。カルチョで時代を築いた彼も、指折りの指導者となるうえで、当然のことながら暴力には走らなかった。(C)Getty Images

 今年4月、熊本県にある私立秀岳館高校のサッカー部で30代男性コーチが3年生部員に暴行した動画がSNSで拡散されると、それに段原一詞前監督も関与していたことが明らかになるという一連の騒動が、スポーツ界のみならず社会的な問題として大きな物議を醸した。

 サッカー界のみならず、日本のスポーツ界では、かねてから指導者による選手への暴力が後を絶たない。とりわけ高校生年代では、生徒を思っての"指導"と称した悪しき伝統が今なお蔓延り、指導者による体罰がたびたびメディアでも取り沙汰されている。

 そんな日本の実情を海外の識者や指導者たちはどう見るのか。列強国の現状を知る人たちの率直な意見をまとめてみたい。今回は、かつてミランのユースチーム指導した経験を持つイタリア人のパオロ・タロッツィ・ヴェルビーニ氏に訊いた。

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 日本の高校のサッカーチームで行なわれたというコーチから選手への暴力的な振る舞いを見て、私は自分の目を疑った。選手を罵倒し、暴力を振るう監督は見るに堪えない。これは断じてあってはならない行為だ。もはや司法に訴えるべきレベルである。
 
 どんなチームのロッカールームからも遠ざけるべき人物であり、ましてや絶対に子どもに近づけてはならない。当該する指導者は己の行動を恥ずべきであり、スポーツ界からは即刻追放すべきだ。

 もしも、これがイタリアだったなら、そのコーチはただちに警察に通報される。道で誰かを殴っているのと同じなのだ。選手に対する暴力、もしくは暴言が試合や練習でなされたら、その人物は、心神喪失しているか、異常とみなされる。もう二度とピッチには近づけなくなるはずだ。

 チームを率いる唯一の方法は、選手との対話であり、濃密な話し合いだ。優秀な指導者であるならば、愛情を持って接し、選手からやる気を取り出し、それを高く維持させられるはずだ。決して恐怖で支配すべきではない。チームをコントロールするうえで暴力に頼る指導者は、自分のコーチングスキルの低さを、自ら露呈しているようなものだ。

 選手が監督の指示に従い、目指すサッカーを共有させるために、まずなによりも選手自身のやる気を掻き立てる必要がある。つまり心理的な側面への働きかけが必要不可欠だ。それは監督への絶対的な信頼を構築していくために重要になる。
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