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欧州残留も探っていた名手スアレスはなぜ母国復帰? “奇跡”を起こしたのはサポーターたちの愛だった「浪漫は健在である」【現地発】

チヅル・デ・ガルシア

2022.08.10

古巣であるナシオナルに電撃復帰を果たしたスアレス。欧州でのプレーを視野に入れて新天地を模索していた彼が舞い戻った理由はなんだったのか。(C)Getty Images

「私はサポーターを誇りに思っています。彼らが奇跡を起こしてくれたのですよ」

 ウルグアイ代表FWルイス・スアレスの古巣ナシオナルへの復帰が決まったとき、同クラブのホセ・フエンテス会長は開口一番にサポーターを讃えた。夢物語と思われたスターの帰還が実現したのは他でもない彼らの情熱的な愛と行動力の賜物だったからだ。

 事の起こりは7月7日。それまで「ほぼ確実」と報じられていたアルゼンチンの名門リーベルプレート入団について、母国のメディアの取材に応じたスアレスが「リーベルがコパ・リベルタドーレスで敗退したので可能性はなくなった」と伝えた際に、こう洩らしたことがきっかけだった。

「第一希望は欧州に残ることだ。でも、ここで重要なのは金銭的な条件ではない。ナシオナル? いや、誰からも連絡はもらっていないよ。僕が(欧州以外の)リーベルに扉を開いたと知っているのなら、ナシオナルから連絡があってもいいと思わないかい?」
 
 この発言を聞いて黙っていなかったのが、ナシオナルのサポーターだった。すぐさまSNSで「#SuarezANacional」(スアレスをナシオナルへ)というハッシュタグを拡散させ、皆がナシオナルのユニホームを着たスアレスの加工画像をプロフィール画像に使用。卒然と始まったこの「スアレス復帰祈願キャンペーン」は一気に広まり、ハッシュタグ付きのツイート数は総計5000万を超え、一時は世界のトレンド入りを果たすほど、大規模なものに発展。人口350万人弱の小さな国で発起した、空前絶後のムーブメントとなったのだ。

 私がその動きを知ったのは、ウルグアイの新聞エル・オブセルバドール紙でナシオナルの番記者を務めるセバスティアン・アマジャがツイッターで「俺のタイムラインがスアレスの顔で埋まっている」と呟いた時だった。「スアレスをナシオナルへ」のハッシュタグが付いたツイートを見てみると、見事にほぼ全てのユーザーが同じ加工画像をプロフィール画像にしていて、私のタイムラインも一瞬でスアレスの顔だらけになった。

 それだけではない。7月21日に行なわれたリーグ戦ではスアレスのペーパーマスクが2万枚配布されたほか、彼の背番号である9にちなんで前半9分には、彼の愛称である「ルーチョ」をサポーターが一斉にコール。ナシオナルの5点目となる得点をマークしたDFクリスティアン・アルメイダまでが、スアレスのマスクをつけてゴールを祝福したのである。
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実質3か月の「束の間の恋」。それでもサポーターの愛は膨らむ