日本代表

独特で複雑な練習に込められた「考える」の真意。名将オシムが愛弟子たちに与えたスキル向上のための“ヒント”とは

THE DIGEST編集部

2023.01.02

ビブスの色を複数に分けた複雑なゲーム形式の練習を課したオシム。こうした独特の内容には稀代の名将なりのメッセージが込められていた。写真:THE DIGEST

 サッカーは駆け引きのスポーツだ。相手の狙いを推測して、その狙いを外すような仕掛けをする。そんなやり取りを個人、グループ、そしてチームとして、ピッチ上で繰り返していく。

 育成年代の指導を見ていると、「遅い! もっと早くプレーしろ!」というイライラした指導者の声を耳にする機会は多い。ボールを持ってから、「次はどうしよう?」「今は何ができるんだろう?」とじっくり考える時間は確かにない。グラウンドには味方だけではなく、相手もいる。もちろん、こちらがボールを持っていれば、奪い返しにくる。

 そうした状況下で、子どもたちは慌てて「何かをしなきゃ」とパニックに陥る。そうなると不用意にボールを前に蹴りだしたり、アイデアがない状況で近くで見つけた味方にパスをしたり、相手守備陣が固まっているところに意味もなくドリブルで突っ込んでしまったりと、ボールを失うリスクの高い選択をしてしまいがちだ。

 では選手はどのように状況を認知し、先の展開を読む能力を身に着けられるのだろう。そして、習得するためにはどのようなトレーニングが望ましいのか。
 
 ジェフ市原(現ジェフ市原・千葉)時代に稀代の名将イビチャ・オシム(故80歳)のもとで、濃密な時間を過ごした羽生直剛が、恩師が当時に行なっていた取り組みを振り返ってくれた。

「オシムさんからも『早くしろ!』とは言われてましたね。そんななかで、オシムさんの代名詞みたいになっている『様々な色のビブスを使ったトレーニング』は設定からして、僕たち選手がやるべきプレーをちゃんと考えてやれば、上手くなるようになっていたんですね。自然と頭の回転が速くなるようにオーガナイズされているトレーニングだから、ある意味コーチングとか、フリーズして止めたりする必要がないような練習になっていたと思います。

 最初のころはさすがに困りましたけど。例えばアップで4対1のロンド(ボールキープのパス回し)をしていると、『パスを出したら、その場にいるな。どっかに走れ!』って言われるんです。でも、そこからいなくなったら、ボール持った選手のサポートがいなくなっちゃうという感覚に僕らはなってしまっていた。いなくなったスペースを、他の誰かが埋めればいい、というのがわからなかったんですね。ボールに直接かかわっていない選手が何かを感じ取れるだけのレベルに僕らはなかった」
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「もっと考えろ!」と選手に声をかけても、何も生まれない