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“若きタレント2人が活躍した”ユベントスと“主導権を握る意図があった”インテル、スリリングな4-3決着のイタリアダービーで「焦点を当てるべきは」【現地発コラム】

片野道郎

2025.09.15

インテルはチェルハノール(左)のミドル2発などでリードしたが、途中出場の19歳アジッチ(右)に後半アディショナルタイムに決勝ゴールを奪われた。(C)Getty Images

インテルはチェルハノール(左)のミドル2発などでリードしたが、途中出場の19歳アジッチ(右)に後半アディショナルタイムに決勝ゴールを奪われた。(C)Getty Images

 後半に入っても、インテルが攻勢に立ちユベントスがそれを受け止める構図に大きな変化はなし。試合が動いたのは、またもチャルハノールのミドルシュートによってだった。65分、例によってポゼッションで相手のローブロックを押し込んだところから、クロスのこぼれ球を胸トラップしてそのままボレーシュート。1点目は左足だったが今度は右足と、どちらからでも難易度の高いシュートを枠内に収める技術の高さを見せつけた。

 同点に追いつき勢いを得たインテルはその後も主導権を握り続け、76分にはマルキュス・テュラムがCKを頭でねじ込んで勝ち越しに成功。ユベントスにしてみれば、ほとんど逆襲の機会を作れない状況に業を煮やしたトゥドル監督が、73分に3人を同時交代(ヴラホビッチ→ロイス・オペンダ、コープマイネルス→ヴァシリエ・アジッチ、マヌエル・ロカテッリ→ファン・カバル)して流れを変えようと試みた直後というタイミングだっただけに、ショックは小さくなかったはずだ。

 しかし、ここからの残り15分は、逆にユベントスが攻勢に転じてインテルを押し込む展開になる。79分にさらに2人を交代(ウェストン・マッケニー→ジョアン・マリオ、フェデリコ・ガッティ→ジョナサン・デイビッド)して、システムを前がかりな4-2-4に切り替えて勝負をかけた采配が功を奏した格好だが、インテルの中途半端なゲームマネジメントが、逆に相手につけ込まれる要因になったという側面もあった。

 追加点を狙わずにリードを守り切ろうとするならば、ボールを保持しながらペースを落として試合をクローズするのが最も効果的な戦略だろう。しかしリードして以降のインテルの振る舞いは、あまりに受動的だった。逆転に成功するまでの76分間に62%あったボール支配率が、そこから試合終了(90+7分)までの20分間は40%にまで低下した事実は象徴的だ。

 83分に決まった3-3の同点ゴールは、自陣左サイド深くでアレッサンドロ・バストーニが不用意なファウルによって与えたFKを、ケフレン・テュラムにヘディングで決められたもの。そこからの残り10分あまりも、同点ゴールで勇気を得たユベントスが攻勢に立ち、インテルがそれを受け止めるという構図に変化はなかった。

 とはいえ、自陣の低い位置に5-3-2のローブロックを敷くインテルの守備は、少なくともオープンプレーにおいてはユベントスの攻撃に十分に耐えるだけの強度を保っているように見えた。ユベントスは前がかりな4-2-4の配置で押し込むものの、ラスト30メートルの攻略で違いを作り出せる唯一の存在であるユルディズが左ウイングに開いてゴールから遠ざかったこともあってか、本当に危険な場面はまったくと言っていいほど作れないまま。

 そこで試合を決めたのは、途中出場した思わぬ伏兵の圧倒的な個人技だった。時計が90分を回ったところでユベントスが左サイドからゴール前に攻め込むも、インテルの最終ラインにはね返される。普通なら、ここで一旦ボールを後ろに戻し、そこから左右どちらかに展開して攻め直す場面である。

 ところが、ピッチ中央でサポートポジションに入っていた19歳のセントラルMFアジッチは、前線から戻ってきたパスをフリーで受けると、30メートルはあろうかという距離から思い切り良く右足を振り抜いた。ほぼ無回転でぐんと伸びたボールは、ダイブしたGKヤン・ゾマーの両手を弾いてゴール左隅に飛び込んだ。
 
 2006年生まれのアジッチは、モンテネグロの名門クラブであるブドゥツノストで16歳でトップチームにデビューし、早くから欧州強豪クラブのスカウトたちから注目を集めていた逸材。加入1年目の昨シーズンは、セリエCで戦うBチームを主戦場としながらトップチームにもしばしば帯同し、セリエAで6試合に出場した。1歳年上のユルディズに続いて、ユベントスのスカウト網が発掘して手に入れた「宝石」である。

 彼ら若きタレント2人が見せた素晴らしい輝きは、「イタリアダービー」での勝利をもたらした直接の決め手だったというだけでなく、ユベントスの未来にとっての大きな光明でもあるだろう。とはいえ、試合全体を振り返ってみれば、受けに回った時のローブロック守備には安定感があるものの、攻撃はまだ明確な形が確立されておらず、個のクオリティー(とりわけユルディズ)への依存度が高すぎるなど、まだ明確なアイデンティティーが確立されていない構築途上のチームだという印象は拭い切れなかった。

 トゥドル監督も試合後のインタビューで、ユルディズをゴールに近い中央のゾーンでプレーさせるメリットを認めたうえで、ヴラホビッチ、デイビッド、オペンダとレギュラークラスのFW3人を擁する陣容との折り合いをどうつけるか、最適解を見出すのはこれからの課題と語っている。戦力的には優勝候補と目されるナポリ、インテルと遜色ないレベルにあるだけに、ここからどのようにチームを確立していくか、その手腕が注目されるところだ。

 他方インテルは、2-3とリードした後、ラスト15分のゲームマネジメントに課題を残したものの、現時点におけるチームとしての完成度ではユベントスを明らかに上回っているように見えた。その観点に立てば、開幕3試合で1勝2敗という不本意な滑り出しも、必要以上に問題視する必要はなく、結果よりもむしろパフォーマンスに焦点を当てて論じるべきと言えるだろう。

 パフォーマンスに関して言えば、インザーギ前監督時代と比べると、チームの重心を上げて積極的なプレッシングに出る時間を長く取ることで、より高い位置でボールを奪い、主導権を握って敵陣で試合を進める時間を増やしたい意図が読み取れる。この方向性は、重心を低めに設定し、相手のプレスを誘引してその背後のスペースを衝く昨シーズンまでのゲームモデルとは明らかに異なる側面を持っている。

 とりわけ、従来は裏のスペースの活用に重点が置かれていたラスト30メートルの攻略では、新たなアプローチも必要になってくるだろう。この試合で、一旦アタッキングサードまで押し込んだ後に攻め手を欠き、結局チャルハノールのミドルとセットプレー以外、決定機らしい決定機を作れなかったという事実は示唆的だ。

 つまるところ冒頭でも述べたように、4-3というスリリングな展開は、構築途上の未完成なチーム同士の対戦だったからこそであり、焦点を当てるべきは目先の勝ち負けや勝点ではなく、ここからどのようにチームを仕上げて行くのかの方だ、という結論になる。今週からチャンピオンズリーグも開幕し、ウィンターブレイクまでの3か月間、週2試合ペースで息もつかせぬ戦いが続く。両監督の手腕に注目してその足取りを見守っていきたい。

文●片野道郎

【動画】4-3と打ち合いの展開になったイタリアダービー!

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