戦争の影響を受けているのはイスラエル代表チームも同じだ。現在、EURO2024予選の真っ最中だが、10月に予定されていたコソボ戦とスイス戦が11月に延期。そのためイスラエルはこの11月の10日間に4試合を消化しなければならない過密スケジュールとなった。
11月12日に行なわれた敵地でのコソボ戦は0ー1で敗れ、15日のスイス戦(1ー1のドロー)、19日のルーマニア戦(0ー1で敗戦)はそれぞれホームで戦えるはずだったが、いずれも中立地ハンガリーで試合を行なった。そして21日にはアウェーでアンドラと対戦する。
12日にコソボの首都プリシュティナで行なわれた試合は、大きな緊張感に包まれていた。コソボの人口の90パーセント以上を占めるアルメニア系住民は、ほとんどがイスラム教徒。イスラエル当局は代表チームに試合の棄権を勧告したが、選手たちのプレーをしたいという気持ちは大きかった。
イスラエル代表の一行を乗せた2台のバスは警察車両と武装警官に伴われ、滞在先のホテルも会場となるスタジアムも厳重な警備が敷かれた。一行が泊まるホテルの前にはバリケードが作られ、選手は外出厳禁を言い渡された。試合当日はスタジアム周辺の道路は封鎖。来場した観客には厳しいチェックが行なわれたほどだった。
イスラエル警察も不測の事態に備えるためチームに同行。これにはコソボ代表FWのヴェダド・ムリチ(マジョルカ)が、「なぜ彼らがコソボの人々を警戒するのか分からない。俺たちは試合をするのであって、戦争をするわけじゃない」と苦言を呈した。
このムリチの発言後に「そんなに怖いならコソボに来るな」といったようなイスラエルに対する批判が広まったため、コソボサッカー協会は「こうした警備態勢は3月の時点で決まっていた」と、宥めるのに必死だった。あまり知られていない事実だが、イスラエル代表が国外遠征する際は、つねにイスラエルの護衛がつく。これは戦争前から変わらないのだ。
管轄するUEFAはコソボに人たちに「落ち着いて観戦するように」と声明を出し、コソボ当局も「人種差別的、政治的、宗教的な宣伝物は一切禁止する」と告知した。幸いにもイスラエルの国歌斉唱時に多少のブーイングが聞かれたくらいで、試合は大きな衝突もなく無事に終わっている(1ー0でコソボが勝利)。ただし通常の試合の雰囲気ではなかったのは確かだ。
一方で、イスラエルUー17代表のこの先すべての試合が公式にキャンセルされることが発表された。現状、イスラエル人が国外に出ることは危険な行為で、何よりほぼすべての選手がすぐに徴兵されるからだ(男性の場合、兵役は18歳から3年間)。彼らはボールを蹴るのではなく、銃を持って国を守ることを学ばなければいけない。
戦争はすべてのスポーツを、それを愛する人を、そして日常を壊してしまうのだ。
文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとして中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFA(国際サッカー連盟)の広報担当なども務め、ジーコやカフーら元選手との親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。
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11月12日に行なわれた敵地でのコソボ戦は0ー1で敗れ、15日のスイス戦(1ー1のドロー)、19日のルーマニア戦(0ー1で敗戦)はそれぞれホームで戦えるはずだったが、いずれも中立地ハンガリーで試合を行なった。そして21日にはアウェーでアンドラと対戦する。
12日にコソボの首都プリシュティナで行なわれた試合は、大きな緊張感に包まれていた。コソボの人口の90パーセント以上を占めるアルメニア系住民は、ほとんどがイスラム教徒。イスラエル当局は代表チームに試合の棄権を勧告したが、選手たちのプレーをしたいという気持ちは大きかった。
イスラエル代表の一行を乗せた2台のバスは警察車両と武装警官に伴われ、滞在先のホテルも会場となるスタジアムも厳重な警備が敷かれた。一行が泊まるホテルの前にはバリケードが作られ、選手は外出厳禁を言い渡された。試合当日はスタジアム周辺の道路は封鎖。来場した観客には厳しいチェックが行なわれたほどだった。
イスラエル警察も不測の事態に備えるためチームに同行。これにはコソボ代表FWのヴェダド・ムリチ(マジョルカ)が、「なぜ彼らがコソボの人々を警戒するのか分からない。俺たちは試合をするのであって、戦争をするわけじゃない」と苦言を呈した。
このムリチの発言後に「そんなに怖いならコソボに来るな」といったようなイスラエルに対する批判が広まったため、コソボサッカー協会は「こうした警備態勢は3月の時点で決まっていた」と、宥めるのに必死だった。あまり知られていない事実だが、イスラエル代表が国外遠征する際は、つねにイスラエルの護衛がつく。これは戦争前から変わらないのだ。
管轄するUEFAはコソボに人たちに「落ち着いて観戦するように」と声明を出し、コソボ当局も「人種差別的、政治的、宗教的な宣伝物は一切禁止する」と告知した。幸いにもイスラエルの国歌斉唱時に多少のブーイングが聞かれたくらいで、試合は大きな衝突もなく無事に終わっている(1ー0でコソボが勝利)。ただし通常の試合の雰囲気ではなかったのは確かだ。
一方で、イスラエルUー17代表のこの先すべての試合が公式にキャンセルされることが発表された。現状、イスラエル人が国外に出ることは危険な行為で、何よりほぼすべての選手がすぐに徴兵されるからだ(男性の場合、兵役は18歳から3年間)。彼らはボールを蹴るのではなく、銃を持って国を守ることを学ばなければいけない。
戦争はすべてのスポーツを、それを愛する人を、そして日常を壊してしまうのだ。
文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとして中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFA(国際サッカー連盟)の広報担当なども務め、ジーコやカフーら元選手との親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。
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